300年間も古びない美しい歌。ペルゴレージのスターバト・マーテル |
僕がクラシックをかなり真面目に聞きだした頃、45年以上もクラシックを聞き続けて家が潰れそうなほどレコードでいっぱいなのに、いまだ毎週レコードを買い続けているという!生粋のクラシックファンであるIさんのお宅におじゃましては、Iさん推薦による名曲を聞かせていただき、その中で気に入ったものを買うという、まことに有難くも贅沢なことをさせていただいていました。
Iさんがいなければ僕がこんなにクラシックに夢中なることも無かったかも知れません。
このIさん、レコードがとても高価だった中学生の時に、おこずかいを貯めて初めて買ったレコードがマタイ受難曲というのですから、ただものではありません。
普通は運命とか未完成とか新世界とか、そういう有名な曲を買いますよね。僕だって中学生時代この3つのレコードだけは持っていました。
その頃はちょうど僕の関心がJAZZから離れクラシックに向いていた時でした。なぜかJAZZが急に窮屈なものに感じられて、クラシックを聞くとなんとなく生き生きと感じられたからです。不思議ですけどほんとうです。
しかし器楽曲はともかく、いわゆるクラシックの歌はちっと苦手でした。
喉から声を振り絞るように聞こえる発声が苦手で、学生時代にグリークラブなどの歌を聞くと思わず逃げ出したくなるほどでした。(元グリークラブだった方すみません。その頃僕はギター片手にアメリカのフォクーソングなど歌っていました)
例えばエラ(エラ・フィッツジェラルドのことです、それも若いころの!)を聞いてください。まるで風が吹くように、無理なく自然に歌うではないですか。それなのに、何が辛くてあんなに断末魔のニワトリのような不自然な声で歌うのだろう・・と何十年もずっと思っていたのでした。
その後それは本物のクラシックの歌手の歌を聞いたことが無かったため、と言う事が解りました。
それは実は大きな誤解だったのです。
しかし何十年も続いた誤解は、新しい経験無しには解消することは出来ない、という貴重な経験も、今まで誤解を築いてきた年月のほうが、これから生きる年月より数倍長いという年齢ではいささか遅きにすぎるようです。せいぜい新しい物を経験するようこれからも頑張りましょう!!
そのIさんのところで聞かせていただいたのが、ミッレ・フレーニとテレサ・ベルガンザの二人の歌によるスターバト・マーテルでした。
このスターバトマーテルはそんな偏見をあっという間に吹き飛ばしてくれるような美しい曲でした。
スターバトマーテルは日本語だと悲しみに暮れる聖母‘で、キリストの死を悲しむ聖マリアの深い悲しみのお祈りを歌にしたものです。
お祈りの文句そのものはとても有名なものらしく、同じお祈りにさまざまな人が曲をつけています。
もちろんそんな事は後で知ったことでして、ともかくも美しい旋律、流れるようなオーケストラの伴奏、この世の中にこんな美しい歌があったのかと感激しました。
この曲のあまりの美しさに気を取られ真面目に祈らなくなってしまうと、一時は教会で演奏されることが禁じられたそうです?たしかに教会で演奏される辛気臭いイメージの曲と違って、ペルゴレージのこの曲は悲しみのなかに甘美さまで感じられるような美しさなのです。
すっかりこの曲が気に入った僕は、同じスターバトマーテルなら同じような曲だろうと、ロッシーニ、ドボルザークなどのも購入してみましたが、まったく違う立派で派手な曲だったのでびっくり、プーランクもかなり斬新!
やっぱりこの曲はしっとりとしたペルゴラージとスカラッテイのものが僕にはしっくりきます。
今数えてみると、CDが8枚、レコードで6枚ほどありました。この枚数を見て、なんだマニアだね。と思った方、それは間違いです。
同じ曲で数種類、数十枚持っているのは普通で、凝った方だと同じレコードをレーベル別に6枚も8枚も持っていたりするのです!
まだまだマニアへの道は遥か遠いと言わざるを得ません。
それはともかく、色々聞いた中で気に入っているのは、やはり最初に聞いたフレーニとベルガンザの盤(これは他と較べると随分とテンポが遅いのが解ります)、バーバラーボニーとカウンターテナーのアンドレア・ショル、などで僕の好きなクリスタルードリッヒも歌っているのですがこれはさほど心ひかれませんでした。
最近のものではアバドがモーツアルト管弦楽団と入れた一連のペルゴラージの作品集(このスターバトマーテルがどのアルバムよりリュートの音がはっきり聞こえます!)が素晴らしく、良く聞いています。また名前だけきくとこってりしすぎかなと思われたアンナ・ネトブレコのものも予想に反して?バロック風に歌っていてとても素晴らしい出来でした。
JAZZの中ではスタンダードソングと言われる曲が数多くあります。それは様々なプレーヤーに愛され現代まで演奏されてきました。
このペルゴラージのスターバトマーテルはクラシック界のスタンダードソングですね!
曲そのものが良いと、どんな人が演奏しても良いものになることが多いのですが、この曲も昔風のどーんとした演奏から、オリジナル楽器による清楚な演奏まで、どんなアレンジでも良く聞こえるのはやっぱり曲が本当素晴らしいからでしょう。
こういうのを聞くと300年という時の流れなんてほんとにあっという間だということがわかります。