ルイ・マルは天才だった!おもわずため驚きのため息の出てしまう3つの作品 |
僕はフランスの有名な映画監督、ルイマルの大ファンと言うわけではありません。
むしろあまり好きでないタイプと言ったほうが良いかも知れません。
それなのに、たまたまとか偶然に彼の作品に出会ってしまうと、そのあまりの衝撃の強さに忘れることの出来ない作品となってしまうのです。
これほど強いインパクトを残した映画監督はあとはタルコフスキー、エリック・ロメール、清水宏くらいでしょうか。
そんなわけで彼の作品を全て見たわけはありませんし、というよりむしろほとんど見ていないといった方が良いくらいなのですけど、僕にはもうここれだけで充分です、ごめんなさい!みたいな3本があります。
美味しいなじみのお店に何度行っても、つい同じメニューばかり頼んでしまうようなものでしょうか(ちょっと違う気もしますが!)
それが「死刑台のエレベーター」「恋人たち」「ルシアンの青春」の3本なのです。
ルイ・マルの映画の特徴の一つに圧倒的な音楽の使い方のうまさがあります。
僕が良く聞くアルバムの中に比較的新しい録音の(と言っても1986年の録音ですけど)バルネ・ウイランのサックスにフィリプ・プテイのギターの二人だけの非常にシンプルですが緊張感とくつろぎが上手にまじりあった極上の演奏があります。
そしてこのバルネ・ウイランという人、僕は良く知らなかったのですけど、ルイ・マルのあまりにも有名な「死刑台のエレベーター」でマイルスデイビスと一緒に演奏していた人だったのです。
(ウイランがデユーク・ジョーダンやケニードーハムといったJAZZ有名人と一緒に演奏した、1959年のパリでのライブアルバムも、ハードバップならではのハーモニーと楽しさいっぱいのなかなかの名盤です。)
研ぎ澄まされて突き刺さる様なマイルスのトランペットの音色があまりに印象的だったので、わりと普通?なウイランのことはまったく気が付きませんでした!
単純にスリラー映画と割り切ったとしても、充分以上に楽しめるこの映画の中で、追い詰められ、息をのむような緊張感を醸し出すのにこの音楽が実に素晴らしい効果をあげていました。
画面の美しさといい、ジャンヌモローとモーリス・ロネという二人の主人公もまさにはまり役で、これだけ完成度の高いサスペンスを他に上げろと言われても難しいほどですが、単なるサスペンスだけでなく二人の男女の葛藤もこれまた見事なのです。
殺人を済ませた後エレベーターに閉じ込められて逃げられなくなってしまうロネ、彼を待つジャンヌ・モローの表情が不安からやがて絶望に変わって行く見事さ。ほんとに忘れがたい映画です。
「恋人たち」では音楽はうって変ってクラシックとなります。
それもこの映画で有名になる前はそれほど有名だったとは思えないブラームスの弦楽6重奏曲です。
(サガンといいフランス人はなぜかブラームスが好きなのですかね?)、
月の光に照らされた庭を散歩する二人、燃えるような恋なのに、なぜか月の光のように冷たい幻想的なシーンに、この弦楽6重奏曲はほんとにぴったりなのです。
それにしてもこの映画ほど耽美的で美しい恋の一夜を描いた映画を知りません。
そしてその衝撃的とも思える意外な結末も!
しかしその美しさとわけの解らないストーリーが一緒になると妙に納得出来てしまい、これまた忘れることの出来ないものになってしまうのも不思議です。
「ルシアンの青春」には冒頭シーンからやられました。まだ少年の面影を残すルシアンが美しい田園風景の中を自転車で走る印象的なシーンから始まったと思うのですが、そこで聞こえてきたのがジャンゴ・ラインハルトの名曲「マイナースイング」だったのです。
僕の大好きな曲だったので驚きました。
この曲は当時ジャンゴのバンドに参加していたJAZZバイオリニストのステファン・グラッペリが、その後にどのコンサートでも必ず演奏した曲で、もちろん彼もこの映画の中の演奏に参加しています。
しかしこの映画、題名とは裏腹に(いったいだれがこんな甘い日本語タイトルを考えたのでしょう!)実に厳しくて悲しい映画なのです。
戦争と恋という、どちらも逃げることのできない絶対的な運命に翻弄されてしまう少年を、美しく描いていますが、しかしとても残酷でもあります。
この映画の音楽にはジャンゴラインハルト作曲による曲が6曲も使われているので、ジャンゴのファンには欠かせない映画でもあります。
というようにルイマルの音楽的センスはただならぬものがあるのですが、「鬼火」ではエリックサテイの音楽を、そして彼の遺作「5月のミル」では再びステファン・グラッペリによるジャンゴの時代を思いださせるような音楽を使っています。
もうひとつルイマルの映画の特徴は画面の美しさにあります。
特にこの3作についてはどの場面もまるで写真集のような美しい画面が印象的でした。
そしてこの3作品に共通するもっとも大きな特徴は、モーパッサンの作品にも共通するような人生の不条理さです。けしてアメリカ映画のようにハッピーエンドというわけにはいかないのです。
それは人間の力だけではどうにもならないのがこの世の中だよ、という徹底した現実主義でもあり、またフランス人特有の「人生なんて所詮こんなもの」(セ・ラ・ヴイ)という醒めていながらも、それを肯定する思いもあるように感じられます。
まったく一筋縄ではいかないのがフランス映画ですね。