熱い美辞麗句がきら星のようにならぶ昔のオーデイオ雑誌。 |
この間古本屋で買った昔のオーデイオ雑誌を読んでいたら、何ページにも渡る写真を使った広告の豪華さと、それ以上にキラ星のように並んだコピーがあまりに面白かったのでここにいくつか紹介してみたいと思います。
僕がオーデイオを始めたのは2000年になってからですが、90年代にはまだオーデイオはこんなに熱かったんですね。
外国製品に較べ国産の大手メーカーのコピーに優れたものが多いのは、広告費が沢山つかえたためでしょうか?優秀な広告代理店のスタッフが頭を絞ったことが偲ばれます。
それでは1992、ざっと20年前のオーデイオの世界です。
「音楽は力、今君はそれを手にしている。佐野元春。」
これがTDKのカセットテープのキャッチ、まだ若かりし佐野元春がギターを抱えてダックウオークしているような暗い背景の写真に白字でこの文字が浮かび上がっています。
それにしても何と言う力強いコピーでしょう。音楽はこの時代まさに「力」だったんです。
オーデイオ業界も自信に溢れていたんですね。
まさかカセットテープが世の中から無くなってしまう時が来るなんて佐野元治だって想像できなかった時代でした。
次はもっと抽象的ですけど「マイルスのオーバー20KHZ」
いきなりコピーにマイルスの名前が登場するのも凄いです。
これは「20khz以上の超高域まで再現することにより量感豊かな音場再生を実現するパイオニア・ワイドテクノロジー」のコピーです。
このWIDE RANGE TECHNOLOGYを使ったアンプやCDPの写真に「同じ空気を感じたい」「心の動く音が聴こえた」などのコピーがならんだ広告が堂々と数ページも続きます。
それにしてもCDでカットされた20KHZ以上の超高域を再現するとはどんな技術なのでしょう。
この広告にはその説明が一切無いのも大胆です。
この技術が続いていたら現代でも画期的なテクノロジーだったはずですけど、今ではすっかり忘れられているようですね。ほんとに残念。
「音楽を慈しむ方へ、感動に触れる高ぶり捧げます」。
これさえ買えば感動の高ぶりまで捧げられちゃうのですから凄い、音楽をいつくしむ方へという表現もなにやらすごいです。
これはJVCのCDプレヤーのコピーーです。CDが出来てちょうど10年くらい経ち、まさにCDプレヤーがばんばん売れていた時なんでしょうね。
「聞こえる音、聞こえない音。聴こえてるいる音の向こう側にある聴こえない音というべき何かをもとめて、音楽を体験したい。」
こうなってくると、もうほとんど感覚だけの世界です。これはケンウッドのアンプのコピーです。
このアンプがあれば聴こえない世界が聴こえてしまうという、電気製品の広告というよりまるで禅の公案のようです!
このころのコピーは性能やデーターよりも音楽そのものを表面に出したコピーが多いようです。
オーデイオは「音楽」を忘れかけている。(マランツ・アンプ)
表現しない。(マクセル・カセットテープ)
平均律の孤高(LUXMAN・アンプ)。
人生という名に値する音が聞きたくなる時がある(シェアーカートリッジ)
アーテイストとリスナーの間には音楽以外あってはならない。(JVC・スピーカー)
THE WALTZ。美しすぎる150曲の3/4拍子のために。(DENON アンプ)
ざっとこんな塩梅で、性能や数値よりいかに音楽の感動を引き出せるかが焦点になっているようです。
PR費にとても余裕があったのでしょうね!たぶん。
次は85年の雑誌ですが、この頃からこういう傾向が始まっていたようです。
ONKYOは6ページの見開きを使ってスピーカー、アンプ,CDプレヤーの広告をしているのですが、その全てが具体的な曲の説明となっています。
チャイコフスキー交響曲6番、「二つに分けたコントラバスのほんとうの重さを聴くことが出来る」そしてボレロでは「たっぷりと、幅広く、ふところの深い「ボレロ」の精緻な構造を聴くことができる」
「ファゴットの微妙な揺れの中にホルンが広げる空間を聞くことができる」これはストラビンスキーの春の祭典です。
その説明は「そこにホルンの音がポーンと入ってきます。しかもファゴットのメロデイーがドから開始されるのに対し半音高い(厳密には減8度以下の)「♯ド」の音です。」・・・・こんな感じで、それぞれの曲にとても専門的で細かい曲の解説が入っています。こうなると広告といよりもはや音楽評論のようです。
難しい言葉も平気で出てきます。
「超伝統主義へのゲネラル・プローベ」いま技巧は表現に変り、リアリズムは神秘へと変容する。
これはタンノイのスピーカーのコピーです。
今では「ゲネプロ」と呼ばれている?本番前のリハーサルのことなのですが、それが超伝統主義とはどんな意味なのでしょう。
このあとこの広告はマーラーの大地の歌を引き合いに出し、一曲から6曲まで、それぞれ解説とコピーが入っています。
たとえば「告別」では。「暗示的にして神秘なドラで幕あける30分の大曲。実に含みに満ちた終曲ですが、それもトランジェントの優れたシステムで聞くからこそ」・・・と、まるでどこかのオーデイオマニアの部屋に遊びに行っているようではないですか!
というわけでざっと書き出しただけでも自信と情熱があった時代を感じます。
最後にその時代をそのまま象徴するようなNECのアンプのコピー、というよりこれはもはや宣言ですね!
「革新のために、革新するのではない。音楽への情熱があるのみだ!」
やっぱりオーデイオが熱い時代でした。