久しぶりにエルルカン・ビスまで足を伸ばしてみました。 |
食べるというのはあまりに毎日やっていることなので、まったくあたりまえのことのように通りすぎて行ってしまうのですが、改めて考えてみると実はとてつもなく重要なことだということに気が付きます。
なんといっても食べないと生きていけないのが生き物です。
どんな生物でも、まず生きること、そして子孫を残すことに涙ぐましいほどの努力を払っています。
その最大の手段が食べることなのです、なんという重要な、(いまさらですが)なによりも重要なことなんですね。
見ていてこれが一番良く理解できるのがアフリカの草食動物です。
インパラとかしまうまとか、アフリカのそこらへんの草原に沢山いる動物です。
彼らをみていると一日中休むことなくひっきりなしに草を食べているように見えます。
僕らが朝ごはんをたべて、仕事したり、運動したり、音楽聴いたり、昼ねをしたり、そんないろんなことをしている間でもかれらはいつでもモグモグと草を食べているのです。
【おいおい、いつまで食べてるんだよ!】と思わずつぶやきたくなりますが、それは見ているだけで胸を打たれるほど真摯な姿なのです。
それはそうですよね、一年の間には草の生えない季節だってあります。
大雨が降ったり、旱魃になったりと食べられない時期だってけっこうあるはずです。
それを考えると一応は食べることに困らない現代の日本に生まれてほんとに良かったとほっと息をつくのです。
ここにはほんとは深くて大きな問題が横たわっているのですが、ここではそんな贅沢が許されている環境にとりあえず感謝するだけにしておきましょう。
その上そんなに大事なことなんだから美味しいものを食べたいなと、さらに贅沢なことまで考えてしまいます。(すみません)
とはいえ諸般の事情(主に経済的理由!)からそんなに毎日ご馳走を食べるわけにはいきません。
それでも年に数回程度は特別な場所で食事をするのはとても楽しい出来事です。
ここでいう【特別】とはそこでなくては味わうことのできないものや時間が存在する場所のことです。
葉山の御用邸の隣の公園のベンチで海を見ながら食べる旭屋のコロッケなどもその一つです。
味とその場所の雰囲気というのはいつもお揃いなのです。
そしてその選び方は偶然が生んだ出会い以外のなにものでもないのです。
僕が知っている特別な場所は数えるほどしかないのですが、そのうちのもっとも豪華な部類に入るのがエルルカン・ビスです。
そしてこの店は間違いなく他のレストランでは味わうことのできない、ここだけしか食べられらないものがある特別な場所なのです。
ずいぶんと間が空いてしまいましたが、久しぶりにこのエルルカン・ビスまで足を伸ばしてみました。
奥湯河原のさらに山の上にあるこのお店は、まさに足を伸ばすという表現がぴったりのわかりにくい場所にあります。
にもかかわらずいつもほどほどのお客さんがいるのはわざわざ食べにくる特定のファンが沢山いるからでしょう。
さらに数年前に某有名ガイドブックで星を取ってからは!週末はほとんど満席状態のようです。
今回もすべての席が埋まっているという盛況ぶりでした。
レストランによっては行くたびに新しい味の発見があったりするところもありますが、ここは驚くほどいつも同じ味です。
かつてのイル・マンジャーレがそんな新しい発見のあるお店でした。
それにしても、いつも新鮮な驚きと喜びに満ちていたイル・マンジャーレが無くなってしまったのはとてもさびしいことです。今でも僕の胸(胃袋?)にぽっかり穴が空いてしまったような気分です。
さて話はエルルカン・ビスに戻りますが、たとえ半年以上ここのお店に来なくてもここの味はいつでも思い出してにっこりすることができます。
そして僕がいつも思い出すのは、まずはスープの味なのです。
(下の写真がそのスープです。夏は冷たく、冬はあたたかく、そのどちらもとても優しいのです)
ここの料理はほんとうに上品です。
いつもチェーン店の安物ばかり食べている舌を洗い流してくれるような清純でシンプルな味わいです。
ここの料理を食べるたびに【普段へんな物ばかり食べていてすみません!】と思わず謝りたくなります。
何と言ってもスープを支えている【だし】が微妙に効いています。といってもそれが目立っているわけではありません。むしろうしろからそっと吹いてくる優しい春風のように繊細なのです。
そして季節によって変わる野菜そのもののおいしさをこのダシがしっかりと支え、野菜の味そのもの全面に押し出すのです。
薄いクリームの風味は洋風なのですが、そこにはまるで日本料理のような穏やかな風味を感じます。
今回はじゃがいもと長ネギのスープでしたが、それはまさにじゃがいもとネギそのもののおいしさなのです。
次にここの料理でいつも感じるのは香ばしさです。
どの料理も素材を生かした、どちらかと言うとソースで食べるのではなく、素材のうまみで食べるという調理法なのですが前菜の軽くあぶった海老の香ばしさはもちろんのこと、様々な料理にほのかな香ばしい香りを感じるのです。
これは食材そのものが焦げる香りなのか、それともスモークのように別の香りを付けているのか微妙なところではありますが、いずれにしろそれは原始人が初めて肉を焼いて食べた時の時の感激が蘇ってくるような根源的に美味しい香りなのです。
もう一つ特徴的なのが実に微妙な塩加減です。ほんのりと甘い塩味、まさにそういう感じの味付けなのです。
ほんのちょっと薄味かな?と思うところの一歩手前くらいで、その加減が素材の美味しさを引き出していることは間違いありません。
(下の写真は前菜のスモークサーモンです。フレンチの定番でもあるこの料理ですが、ここのサーモンは特別です。たまにこれに当たるとうれしくなります!)
そしてここの料理の良さはシンプルに素材の良さを引き出しているだけでなく、素材そのものもへんに豪華で押し出しが強かったりしないところにあります。
ある意味コストをうまく下げている?とも言えますが、妙に気取った食材でない適度なものが適度な量で出てきます。
一言で言うとやっぱり上品なんです。
そしてこの雰囲気でこの味にもかかわらず適度な料金と言うのがとても大事なことです。(僕にとっては!)
風景の美しさを含めたこの雰囲気とこの味を考えるとむしろ安いと感じるほどです、まして某ランキングで星まで取っているとなると!
僕のようにけして裕福でない人が、そこそこ肩肘はらない料金で、本当においしい物を素晴らしい雰囲気の中で食べられるお店というのは、いまどき川で砂金を発見するくらい大変なことなのです。
ほんとにありがたいことです。
さてここのシェフはもう少し山を登った場所で、同じように景色の奇麗な洒落たインテリアのフレンチの高級版のお店を開いていたのですが、いつのまにかそれがお寿司屋さんに変わったということを以前のブログに書きました。それはそれは素敵なインテリアのおしゃれなお寿司屋さんでした。
ところが今回エルルカンン・ビスの帰りに前を通って驚いたのですが、そこがなんと洋食屋さんに変わっていたのです。
(上の写真がそのお寿司屋さんのカウンター席です。こんな素敵な場所で今度は洋食ですか!)
表のメニューを見ると値段も千円台で食べられると言う手ごろなお店です。
この店構えと美しい裏山(借景です?)、素晴らしい雰囲気のなかで食事して1000円台! これはまさしく現代の驚異ではありませんか!
しかも料理の監修をエルルカンのシェフが行っているそうなのですから豪華です。(当然姉妹店です)
たった一つの大きな疑問は繊細で上品な味付けをするシェフがハンバーグやミートソースやドリアなどと言ったどっちかと言うと濃い目の味が多い普通の洋食に、いったいどんな味付けをするのか想像もつかないことです?
これではもう試してみるしかないと気もそぞろになってしまうのは止むをえない事!
というわけでまた新しい楽しみが出来てしまいました。
食べることはやっぱり大変です?