オーデイオから自転車まで。冷や汗たっぷりの盛りだくさんな午後でした。M大先輩を訪ねて。 |
東北自動車道の高速出口を降りると、そこまで迎えに来てくれたのは大先輩のMさんの純白のBMWでした。
BMWといってもそこらへんの単なるビーエムとは訳が違います。
一見とても小さくてファミリーハッチバック車と見違えるばかりですが、良く見るとトランク付きの立派なクーペボデイで、図太いなタイヤが低いボデイの4隅にふんばっている姿はかなり獰猛な感じです。
それもそのはずこの車わずか1.5トンというコンパクトで軽い車体に、なんと3リッター直列六気筒というおおきなエンジンを積み、さらにターボまで装着して326馬力という出力を搾り出し、それを6速のマニュアルミッションで操るという、とんでもなくマニアチックで過激な車なのです。(お値段のほうも過激なはず!)
興味深深の僕は乗ってきた車からさっそくこちらの助手席に乗せてもらうことにしました。
サイドが深く湾曲したホールドの高い皮のシートはいかにもスポーツカーです。
相当に引き締まった足まわりですが、その割には思ったほどごつごつ感じられず、逆にぴしっと引き締まった感じが小さいボデイにかかわらずずっしりとした安定感を感じさせてくれます。
6速のマニュアルミッションはじゃっかん渋そうでしたが、シフトアップやシフトダウン時に感じるある種の間は、普段オートマに載り慣れた体に懐かしい記憶を呼び起こしてくれます。
車のいない田舎道の直線でMさんはいきなりアクセルをぐっと踏みました。
その瞬間体がぐーっとシートに押し付けられます。その感覚は今までジェットコースターでしか体験したことのない強烈なものでした。
ほんの数分だったと思いますが、もしかすると数分ではなくほんの数秒だったのかもしれません。
なんせこの車静止から時速100キロまで達するのにたった4.8秒しかかからないのですから!
情けないことに【や、やめてください!】という声が思わず出るほど強烈な加速に、まず最初の冷や汗をかきました。
そしてこの強烈な体験がこれからMさんのところで過ごす午後の時間を見事に象徴していたのです。
Mさんは元競輪の選手で引退後もオリンピックの選手のコーチをするなど、自転車レース界では名の知れた有名人です。
ご自宅の隣には私設のトレーニングジム(道場)があり、今でもここで現役の選手の指導などを行っています。
そんなMさんとお知りあいになれたのは、もちろん自転車を媒体にしてではなく(レベルが違いすぎます!)オーデイオの方面からでした。
Mさんの案内でまず訪れたのが地元ばかりか近県からも人がやってくるというラーメン屋さんです。
田んぼの中の一軒家のここはちょっとみラーメン屋というより、日本そばやのような雰囲気です。
まず驚くのは開店直後というのに駐車場は車で満杯、そしてなぜかバイク乗りに人気のようで大型バイクが列をつくってとまっています。入り口には早くも長蛇の列です。
最近では食べることのできないようなシンプルでさっぱりとしていながら実に味わい深いラーメンを食べ終わって出てくると、店のまわりは何事が始まったのかと思うほど人が多いのには驚きました。
【こりゃー祭りか!】と思わず叫んでしまうほどでした。
Mさんのご自宅には選手時代に乗っていた自転車が飾られているほか、数代の自転車と美しくカスタマライズされた高価なモールトンなどもあります。
早速2階のオーデイオルームに上がると、そこには人の頭よりも大きい美しいブルーに塗られた特大のラッパが待っていました。
特にJAZZファンの間で名高いドイツ製のアバンギャルドという、名前そのままの大胆な形をした大型スピーカーです。
このスピーカーは昔のスピーカー並に能率が高いのが特徴です。
能率が高いというのは小さな出力でもしっかり大きく鳴るということなのですが、にもかかわらずこれを駆動するアンプは一見大型ストーブのように見えて、実際にも大型ストーブ並の熱を発する!という重厚かつ大型のマークレビンソンが4台なのです。
これ一個でも一人で持ったら腰が抜けること確実という重さの黒いレビンソンのアンプが4個並べておいてあるのですから壮観です。
10ワットくらいでも十分なるはずのこの能率のよいスピーカーを合わせて400ワットで鳴らすのですから、そのエネルギーは爆発的です。
この感覚は小型で軽い車に強力なエンジンを載せた、さきほど乗せていただいたばかりのBMWのようではないですか!
カントリーロードを失踪する326馬力そのままのスピードで音が空気を貫いて疾走していきます。
BMWのときは怖くて叫んでしまいましたが、こちらは思わず快感で声が出てしまいそうです。
音量もハンパではありません。この音量はまったくライブハウスではないですか、それも前のほうの席!
そうなのです。この感じはまさにライブハウスの音です。
我が家で聞いているピアノトリオではピアノの伴奏にしかすぎないように聞こえるベースやシンバルが圧倒的な存在感で迫ってきます。
特にシンバルの厚みのある響き、ドラムのハイハットの軽やかさなどは印象的で、全体的にも天に舞い上がるかのような抜けの良さが実にこぎみ良く気持ちがよいのです。
アメリオという人がプロデュースしたアルバムは特に録音が素晴らしいと僕の周りの人たちが絶賛しています。
我が家でも数枚聞いたことがあるのですが、装置が悪いのか耳が悪いのか、もしくはその両方なのか、どうしても彼でなくてはという決定的な違いが解らないで困っていました。(別に困ることではありませんけど)
そこでそのアメリオの録音によるドラムのアルド・ロマーノ率いるピアノとトランペットのトリオのアルバムを聞かせてもらいました。
トランペットは僕の好きなエンリコ・ラヴァです。
まったく違うではないですか!この迫ってくるようなエネルギー感とライブ感はすごい。
他の人の録音と区別がつくかどうかはいまだに別として、なるほどさすがにアメリオの録音は凄いと素直に感心したのでした。
(下の写真はMさんの道場の一角です。おりしも若者が腹筋を鍛えていましたが、この若者の足を見ると僕の4,5倍はあろうかというほど太く、まるで丸太のようでした。)
ここで聞くと僕がピアノ トリオという形態を見くびっていたことが解ります。
静かな部屋で雨だれのような美しいピアノトリオに浸っているアンニュイな午後、見たいな雰囲気とはまったく違い、エネルギーが飛び散る火花のような演奏が展開されているではないですか!
聞きながら、ウーンこれは・・・とまたもや冷や汗を流す僕でした。
もう一つ驚いたのはレコードです。有名なアートペッパのアルバム、ウイズ リズムセクションです。
かの寺島さんが某所で鳴らしていたこのLPの音を聞いて【こんなんじゃ駄目だ、この日のアートペッパーはマイルスのリズムセクションをバックに負けないように必死で演奏していたんだ、その緊張感がまったく出ていない!】と一喝したという話が、彼の本に乗っていましたが、その意味が初めて良くわかったのです。
そのくらいペッパーが一生懸命吹いているのがわかるのです。
もともとごついガーランドのピアノはさらに分厚く力強く聞こえるし、フィリーのドラムもえらく派手で情熱的、ポール・チェンバースのベースだってモコモコしていないではビンビンとはずんでるではないですか!
ともかく全員が真剣に演奏しているのがひしひしと伝わってきます。
この聞きなれたLPがこんな風に聞こえたのは初めての体験でした。
しかもこのレコード、こんな凄い音で鳴っているのにカートリッジはなんとシェアーのMM型の普及型というのですから驚きます。
オーデイオには常識無し、情熱あるのみです!
そしてやっぱりJAZZはこういうエネルギーが爆発するような音で聞かないと駄目なんだなと深く反省したのでした。
Mさん宅の第二部では、さらに冷や汗をかくことになりました。
その第二部というのは自転車です。
同行したAさんは僕より自転車歴は短いというのに箱根ターンパイクや富士、乗鞍などのヒルクライムに出場し完走しているという、僕がちょろちょろしている間にはるか遠くまで行ってしまった本格派です。
そのAさんが愛車を持参しプロフェッショナルなM大先輩のご指導を仰ぐという有難い催しです。
そしてついでに、ほんとについでに、僕がビンデイングを外すと言うチョー低レベルな次元で戸惑っているのを、見るに見かねてそのご指導までしていただけるというのです。
Aさんが道場のローラー台の愛車にまたがっていると、Mさんからは実に真剣に細かいサジェスチョンがとびます。
僕が見るとまったく区別がつかないような細かいライデイングフォームの修正やミリ単位の繊細なサドルの高さや角度の調整など、さすがプロというのはレベルが違います。
ただ見ているだけの僕はわけも解らずひたすら感心するばかりです。
これでAさんも次に出場する予定の乗鞍ヒルクライムでは大幅なタイムアップが図れることでしょう!(それにしても何で自転車で山登りなんてするんでしょう!そこいらへんの坂でふうふう言ってるぼくにはまったくまともな人間のやることとは思えません!)
そして最後にいよいよ僕の番です。まるで歯医者さんで治療台に乗るような気分で、持参した靴をはきMさんの愛車にまたがります。(靴だけ持ってこいと言われていました)
これからの数分がまるで何時間のように長く感じられたことは言うまでもありませんが、この仔細は別途ロードバイクの顛末に書くことにします?たぶん・・・。
最後にMさんの【うちの道場でビンデイングを外す練習なんて低レベルな事したやつは初めてだ!】というお言葉を後に、ご自宅を退散しました。
なんせプロやオリンピック選手などが練習する場所ですから、この記録は今後もやぶられることは無いでしょう!
そして高速に乗る前にコンビニで冷たいコカコーラゼロを一気に飲んで、初めて流れ落ちる大量の冷や汗が少しは止まったのでした。
Mさん有難うございました。
下の写真はMさんの現在の素敵な足です。