なぜか若者の声が懐かしく感じる頃・・・・棚から取り出すのはやっぱりボサノバ【コラソン ヴァガボンド】 |
ちょっと昔だと思っている出来事が、実は20年以上も昔の出来事だったことに気がついたら、それは年を取ったということです。
そのちょっと前の事が30年も前のことだったりする!のが最近の僕なのですが、若かったころの歌手の歌声を聞くと、それがまるで自分の若い頃をありありと思い出してしまいます。
そんな事を思ったのは、キャロル・キングが名盤【つづれおり】でシンガーソングライターとしてデビューする前、まだソングライターとして活躍していた時のデモテープをリマスタリングしたという昨年発売された新譜?アルバムです。
このデモテープの彼女の歌声はまさに若さが噴き出すような若さに満ち溢れていました。
まだ【つづれおり】のような完成されたサウンドではなく歌もピアノも荒削りです。
録音もヒスノイズが目立つ荒いものですけど、なにしろ彼女の声が若くて元気のよいことに感動します。
不思議なのは近頃(と言っても例によって随分前なのでお許しを)の若い歌手の歌声にそれほど懐かしさを感じることがないことです。
たとえばノラ・ジョーンズやメロデイ・ガルドーだってデビューアルバムを聞いて感じるのは若さよりもむしろ成熟ではないですか。
ジェーン・モンハイトだって甘くはありますけど、そこから未成熟な若さを感じることはありません。
最近流行りの少女グループなどにいたっては若者というよりむしろ児童合唱団を聞いているよう?
あまりに若い声のキャロルキングのアルバムを聞いたので古いアルバムを出してきました。
思わず懐かしくて胸がうずくような若者の歌声を聞くなら、カエターノ・ベローゾとガル・コスタのデユエットアルバム【ドミンゴ】です。
二人とも現在ではブラジルを代表するような大歌手になりましたが、このアルバムを録音した時カエターノはまだ25歳、ガル・コスタは22歳でした。
【いつの日にか、望むものすべてを手に入れられると、僕はずっと思い続けてきた】
という歌詞で始まる最初の曲、【コラソン ヴァガボンド】を聞くたびに、僕はなぜか夏の終わりの美しい夕焼けを見ているような気分になってしまいます。
二人の若々しい歌声はどこかで出会ったことのある、とはいえそれがどんな事だったかは思い出せないような懐かしい一シーンを見ているかのようです。
それはまるで青春時代のアルバムに貼ってある一枚の写真。若さを象徴するような痛々しいまでに素敵なアルバムです。
同様に青春時代の残滓のようにう歌声がなぜか胸に迫って来る歌手といえばナラ・レオンがいます。
僕は彼女の歌声を聞くとなぜかシェルブールの雨傘の一場面とかフレンチポップスを想像してしまいます。
聞いているとポルトガル語がいつしかフランス語の歌のように聞こえてしまうのです。
それはたぶん彼女の声とか発声方法に、どこかそれらと共通するものがあるからだと思うのですが、ただ僕がそう感じるだけなのでしょう。きっと。
彼女の歌を聞くとついそういう昔のフランス映画などを懐かしく思い出してしまうのです。
同じブラジルの女性歌手にエリスレジーナがいますが、彼女の声はもっと厳しい気がします。
彼女が今世紀最大の天才の一人【アントニオ・カルロスジョビン】と共演しているアルバムは僕のお気に入りの一枚です。
名曲、名演が満載されたほんとうに素晴らしいアルバムなのです。
でもこのアルバムはエリスのアルバムというよりは、トム・ジョビンという天才の個性の影響のほうが大きいのかも知れません。エリスもずいぶんくつろいで歌っているように感じられます。
彼女だけのソロアルバムには甘い感傷などを吹き飛ばしてしまうような、痛々しいまでの悲しみのようなものを感じてしまいます。
それにしてもこのアルバムで歌われるトム・ジョビンの【3月の水】や【薔薇園に降る雨】などはほんとうに美しい名演です。
懐かしいといえば今年の3月に発売された、これまた新譜?の【カーペンターズ シングルス1969~1973】というアルバムがあります。
もはや聞き飽きて、なにをいまさら感のあるカーペンターズですが、このアルバムが凄いのは物凄い良い音だということです。
この曲がヒットしていた時代にはいまよりもだいぶ劣る装置で聞いていたことが最大の原因かもしれませんが、このアルバムを聞くとこんな良い音だったんだと驚きます。
オリジナルマスターテープを基にしたDSDリマスタリングというのも大いに効いているのでしょう。
あの独特な厚いコーラスも30回くらいも多重録音しているそうで、そこまで凝っていたとは知りませんでした。
特にカーペンターズファンでもない僕でも実にソフトな音とシンプルながら凝ったアレンジで大いになごみました。
結局気がついてみるとステファーノ・ボラーニがカルロス・ジョビンの曲ばかりを演奏しているアルバムを聞いていたのですけど、そんなこんなと昔のアルバムを聞くのもたまには良いものだとおもいました。
それにしても随分といろんな昔の音源の新譜アルバムが発売されるものですね。
白河にご一緒したのが、随分昔にようにも思います。
omoshiro-zukinさんよりはずっと若輩ですが、こちらに挙げられた
面々は私も好きですし、やはり懐かしさをともなって聴きます。
あの盤では、「3月の水(雨)」をよく聴きますが、あらためて「薔薇園に
降る雨」は、しっとりしていい曲だと思いました。