トヨタのデザイン力の凄さ。最大のヒット作【プリウス】のデザイン。 |
車のデザインには間違いなく流行りがあります。昔の国産車は間違いなく海外のデザインをまねしていました。最近では世界の流行りをうまく取り入れるので群を抜いていた車がマークXでしょう。
そもそもマークXの前身マークⅡという名前の車が発売されたときはコロナのマークⅡモデルだったのです。
その頃マークⅡといえば頭に浮かぶのはジャガーのマークⅡだったので、この車が出た時なんでジャガー見たいな名前をつけるのだろう思いました。そのころは名前だって真似だったのです。
そのマークⅡからコロナの名前が取れ、いつしかそんな事を誰もが忘れてしまったころにマークXとなったのです。この車のリアデザインは当時BMWのクリス・バングルが7シリーズで取り入れた厚みのあるトランクルームのラインがそっくり真似されているように見えました。そればかりかフェンダーからフロントまでのラインは横から見るとまるでメルセデスのEクラスそっくりではないですか。
とてもうまく両者の特徴を取り入れながら、それでいて全体的にはまるで別の車のようにバランスが取れているのがすごいです。
トヨタはこのようにその時世界ではやっている流行を取り入れるのがとてもうまいのです。
古くはムスタングを思い起こさせるよなセリカ・リフトバックなどもありました。
その一方で世界のどこにもないようオリジナリテイのあるデザインもします。同じセリカの7代目モデルなど実に流麗なフォームでだれの真似でもない素敵な形でした。トヨタ車のなかでは僕が一番美しいと思うデザインの車です。その中でもオリジナルデザインとしてもっとも成功した例が【プリウス】だと思うのです。
思えばトヨタと日産のデザイン合戦といえばまず思い出すのが初代サニーとカローラーの戦いでした。
これは四角と丸の戦いと言ってもよいでしょう。四角いサニーに対する丸いカローラです。
その後もブルバードとコロナ、セドリックとクラウンなどで一方が角ばったデザインを出せば片方が丸いデザインになるなど丸と角が凌ぎ合っていたのです。
ところがいつの頃からか丸だか角だか一言では断言できないような複雑なデザインが増えていったのです。
これにはプレス技術の進歩で複雑で彫刻的なラインが量産車にも取り入れられることができるようになったことが大いに関係しているような気がします。
僕がサーブの9-3から現行デザインのPOLOに乗り換えて、洗車をしているときに驚いたのはボデイラインが驚くほど複雑になっていることでした。たとえばドアの上から下まで直線で一枚の板だったサーブに較べるとPOLOはそこに波打ったように複雑なくぼみがあるのです。
さてプリウスです。ハイブリッド車の先駆として大々的に登場した2代目でしたが、なにがすごいと言ってそのフォルムが今までのどの車の形態とも似ていなかったことです。
それまではセダンといえばボンネットとトランクが明確に存在していましたし、ハッチバックやワゴンなら後方はすぱっと切り落とされているはず。
ところがプリウスは斜めにカットされたルーフ、ボンネットの傾斜とフロントグラスがつながっているような滑らかなラインなど一見して今までの車とどこか違うぞというのが一目でわかります。いままでに存在しなかったハイブリッド車であることを新しい形で見事に表現して見せたのです。
それは車としての魅力というより、エコという新しいライフスタイルを表現する道具としてぴったりでした。
そのためにはルイ・ヴイトンがそうであるように一目でそれがわかることが重要だったのです。
その証拠は残念ですがホンダの【インサイト】によって証明されてしまいました?
たぶん性能的にはインサイトだってプリウスにさほど劣っているとは思えません。値段も200万円を切って登場するとニュースにまで登場するほど大騒ぎされ、プリウスにそれに負けじとわざわざ200万円を切るモデルまで登場させたほどでした。
ところがどうでしょう。あれほど騒がれたインサイトはすでに生産中止となり、かたやプリウスはいまだに町中を走り回っているではないですか!
プリウスがデザイン重視で設計されたことは間違いありません。その証拠にルーフラインのデザインにこだわったためボデイサイズの割にはトランクが狭いのです。
そこでトヨタは少々見栄えが悪くなってもトランクルームの広いモデルも発売しました。これはオリジナルのプリウスのスマートさに較べれば明らかに不格好です。トヨタがすごいのはこの実用的なモデルをスマートなプリウスのイメージが市場にしっかりと定着してから発売したことです。最初のプリウスのイメージが頭にある市場ではこのモデルは便利なプリウスとして好評をもって受け止められたのです。
【インサイト】の失敗は明らかにデザインにあったと僕は思います。
初代インサイトのデザインはいかにも未来的でスマートでしたが、2人乗りで狭くとても実用的ではいいがたいものでした。ホンダとしても先行モデルとしての位置づけで大量に販売するつもりはなかったものと思われます。
しかし2代目はまっこうからプリウスと勝負する実用モデルです。ここでプリウスの二番煎じのようなデザインでかつずっと大人しく見えてインパクトに欠けるデザインを採用したのは残念なことです。なべて無難なところに落ち着くという判断だったのでしょうか?
ハッチバックデザインの初代シビックが初めて登場した時のインパクトなど、むかしのホンダデザインには技術や思想が外に見えるような元気があったのに残念なことです。
最近の車のデザインはどれも深海魚のような顔になり、押し出しの良さばかりが強調されメーカーとしての特徴がわかりにくくなってきました。
ベンツやBMWやアルファのように伝統的なフロントグリルがあるものは、なんとかその特徴的なグリルで判別できますが、他の車にその伝統的なグリルを張り付けても違和感のないような車ばかりです。
とはいえ最近は思い切ったデザインで自社ブランドをアピールする車も増えてきました。
その筆頭は昔は大人しかったボルボあたりかもしれません。ルノーやプジョーも特徴的なグリルで強い押し出し感を演出しています。ブレがないのはやっぱりVWでしょう。特にゴルフはいつの時代でもゴルフに見えるというのはすごい力量だと思います。
国産のデザインでは一番頑張っているのがマツダでしょう。個性的な顔と抑揚の激しいデザインで一見してマツダだとわかる点では国産唯一です。(あのちょっと悪そうな顔つきはどうも好きになれませんけど)
トヨタもあくの強いフロントグリルや車体カラーをクラウンに採用したりとずいぶんと大胆なことをしていますが、プリウス以外は基本的にオーソドックスです。その中で誰が見てもすぐプリウスだとわかる特徴的なデザインはやっぱり群を抜いてすごかったと思うのです。
というわけで随分トヨタのデザインを褒めてきましたが、すごいというのと好きだと言うのはまったく別物です。個人的にプリウスなど乗りたくない車の筆頭にあげられます。
それにしても最近の車の人相の悪さはどうしたものでしょう。今回の写真はすべて町で撮った昔の車ばかりですが、その優雅で美しいこと。
もし時代というものが車の顔つき?に現れるとしたら、車が誕生して以来今が間違いなく一番品の無い時代なのだと思います・・・。