モーツアルトとのフルート曲ばかりまとめたコンサートを聞いてきました。工藤重典デビュー50周年。 |
もしモーツアルトがこの世にいなかったとしたらどんなに寂しかっただろうと思う人は,僕以外にも沢山いることでしょう。もちろんそんな事ぜんぜんないよ、それよりマイルスがいなかったほうが、コルトレーンがいなかったほうが、ワーグナーがいなかったほうが、ブライアン・ウイルソンがいなかったほうが、・・・とその思いは人によってまったく違うのだろうけれど、それでもモーツアルトを、もしいなかったら一番寂しい人の筆頭にあげる人が一番多いような気がするのです。
モーツアルトの音楽は僕にとっても、たぶん多くの人々にとっても特別なものです。
なぜモーツアルとの音楽がこれほど胸に響くのか、その理由はまったく解りませんし、その魅力については古今東西様々な知識人たちが研究したり、書き残したりしているので今さら僕がここで書くことなどなんの意味もないのですけど、僕にはそれは人間が作ったものというより、もとより自然に存在するもの、たとえばとてつもなく美しい夕焼けのようなものと同じように感じられるのです。
それ自体は別に何の主張をしているわけではないのに夕暮れの透明な光の中を歩いているような、フレスコ画の薄い水色のような空に浮かぶ黄金色に染まった雲を見ている時のような、なんとも形容しがたい思いがモーツアルトの音楽を聞いていると胸に迫ってくるのです。
そんなモーツアルト音楽の中で何が好きかといえばヴァイオリン・ソナタとオペラ、そして協奏曲がそのベスト3になります。というより気がつくとその3つのジャンルを聞いていることが多いと言った方が良いのかも知れません。
真面目にクラシックを聴きだしたのが2000年の頃、(たかが15年前ですからまだまだシロートです!)その頃Iさんが教えてくれたのがモーツアルトのオペラと協奏曲の素晴らしさでした。
そして偶然にも一番最初に見に行ったオペラがフェニーチェ劇場の【コシ ファン トッテ】だったのです。なんというふざけた話!オペラってこんな下世話なの?と思いましたが、その内容はともかくとして夢のように美しい音楽や歌、特に二重唱や四重唱には深く感動したのです。それ以来モーツアルトのオペラの大ファンになってしまいました。
協奏曲のほうはなかなか生演奏を聴く機会がなかったのですが、そのかわりレコードやCDで嫌になるほど聴きました。
なんといってもモーツアルトの協奏曲は傑作ばかりなのです。(四重奏曲や五重奏曲もそれに劣らず素晴らしいのですけど)クラリネット、フルート、オーボエ、ホルン、そして特にピアノ協奏曲はほんとうに良く聞きましたが、聴くたびにしみじみとなんて良い曲なんだろうと思えてしまうのが不思議です。
そういえば今考えてみると他の作曲家の協奏曲はほとんど聞かないではありませんか。もちろんブラームスとかベートーベンとか、有名なメンチャイとか有名な協奏曲のCDは持っているのですが、それを聞くことはほとんどありません。気がつくとモーツアルトばかり聞いている、そんな感じです。ともかく僕のなかではモーツアルトの協奏曲はそれだけで一つの別ジャンルなのです。
その理由は不明ですが、それはまるで自然の風景が自然に目に飛び込んでくるように聞いていて一番すんなりと耳に入ってくるからかもしれません。
他の作曲家の協奏曲はオーケストラとソロ楽器がまる競い合うように激しく戦っているように聞こえます。
それにくらべるとモーツアルトの協奏曲は夕暮れの光と空の夕映えがお互いを引き立てながら静かに輝いているのを見るように、曲そのものが自然にそこに存在しているように感じられるのです。
今回のコンサートは工藤重典デビュー50周年を記念したモーツアルトのフルート曲ばかり集めた珍しいものでした。フルートのコンサートといえば有田正広を2回ほど聞いたことがある程度で、特に今回演奏されるフルートとハープの協奏曲とフルート協奏曲1番はCDで飽きるほど繰り返し聞いた曲なのでぜひ生演奏で聞いてみたかったのです。
最初の曲はモーツアルトが8歳の時に作ったフルートとハープによるソナタでした。
場所が大ホールで席も4階席という後ろだったので最初演奏が始まった時にはずいぶんと音が遠く感じられます。普段自宅で聞いているCDに較べるとフルートの音が随分と小さい気がします。
しかしハープの音が聞こえた瞬間その柔らかくてどこまでも伸びるような美しい響きに驚きました。
ハープはマーラーの交響曲でも多用される楽器で、数台のハープが盛大なオーケストラに負けじと音を出すのですが、今回の演奏ではそれとまったく違った楽器かのように穏やかで優しく響きます。
ハープのアルバムといえばjutta Zoffのハープでレーグナー指揮、ドレスデンシュツートカペレの演奏によるアルバムが大好きで良く聞きます。(良いアルバムです!)
しかしこの広いホールの隅々まで響きわたる音色はそのアルバムよりもずっと深く大ホールを満たすように優しく響くのです。
これまたCDで聞くよりずっと柔らかく感じるフルートの響きと相まって、それはまるで秋の良いお天気の木漏れ日に溢れた雑木林を散歩しているような心持にさせてくれました。
工藤重典さんのフルートは初めて聴きましたが、さすがに溌剌としているというより円熟しているというような芳醇な響きに感じられました。
メロデイを良く知っているおなじみのフルート協奏曲とフルートとハープのための協奏曲はちょっとばっかり食傷気味とはいえ何度聞いても良い曲です。今回の協奏曲の伴奏は【石田組】です。
僕は金聖響の指揮による神奈川フィルをわりと何回も聞いているのですが、その神奈川フィルの第一ヴァイオリンとして異彩をはなっているのがこの石田組を率いている石田さんです。
その異彩というのは演奏ではなく見た目!というのもクラッシックの演奏家としては異色です。
おせいじを抜きにしても?彼の外見や醸し出す雰囲気はどうみても暴走族の組員かあっち方面の組の人のようなのです。芸能人でいったら横浜銀蠅でしょうか?
そんなたたずまいとは裏腹にヴァイオリンの腕は中々なもので、これまた僕の好きなモーツアルトのビオラとヴァイオリンのための協奏交響曲という美しい曲を彼の演奏で聞いたことがあるのですがとっても良い演奏でした。
というわけでマーラーのようにものすごい迫力で迫ってくる音楽も楽しいのですが、今回のようにゆったりと聴くことのできるコンサートも中々楽しいものです。
特に今回印象に残ったのがハープの音色の美しさでした。大ホールでの演奏だったため、その響きの余韻が余計に大きく聞こえよりゆったりした音色で聞こえたのかも知れません。
我が家に戻ってからミッシェル・ルグランが作った美人の女性ハープ奏者をメインに置いたアルバムを聞いてみたら、そのハープのあまりの派手さにびっくりしてしまいました!しかしこれはハープ奏者のせいというよりルグラン好みの編曲のためだと思われます。
その後モーツアルトのフルートとハープのための協奏曲を聞いてみると、フルートはもっと音量が大きく切れ味が鋭く感じましたが、ハープのあの天国的に柔らかい響きは残念ながら聴くことはできませんでした。
いくらオーデイオが良くなっても、やっぱり生でなくては味わえない音というのがあるもので、だからこそコンサートに行きたくなるのでしょう。といいつもアンコールで演奏されたジャック・イベールの間奏曲がとっても良い曲だったので、早速CDを注文してしまったところです。