この辺りで再び東慶寺について何か書いて見ようかな・・・鎌倉で一番好きなお寺。 |
鎌倉市内に何十年も住んでいると言うのに、お寺にはまったく無感心だった。
もともと僕は横浜の人間を自負しているので、横浜に住んでいた時間よりも鎌倉に住んでいる時間のほうが長くなっても、心の中はいまだ横浜の人間でした。
今でも元町や山手のあたりに行くと地元に帰ってきたような気がするのですから不思議なもの。
鎌倉に住んでいるといっても中心から外れた遠くの山の中、駅も大船が近いのでいわゆる観光地たる鎌倉にはわざわざ足を向けない限りあまり縁がありません。
ところが自転車に乗り始めてから今までは結構遠いと思っていた場所が意外にもものすごく近い事がわかったのです。
たとえば鎌倉のメインたる八幡宮や小町通りまで自転車だと30分程度、あっと言う間です。そして4年ほど前から通い始めたジム(市体育館)が由比が浜にあるのでその行き帰りに必然的に鎌倉の中心部を少なくとも週2度は通過することになりました。自転車は行動範囲をあっという間に広げてくれます。
そしてお寺を訪ねるようになったきっかけもまたジム通いにあったのです。ジムで一人黙々とトレーニングをこなしている温厚そうな方とどちらからもなく時々言葉を交わすようになったのですが、その方がガイドの勉強をしているので今度自転車でお寺を案内してくれるというのです。
後で判明したのですが、僕はこの方を同年代くらいだろうと思っていたのですが、聞いてみると何と10歳も年上でした!ジムでのトレーニング効果はまことに偉大です?
鎌倉のお寺は広範囲に点在しているのですべて回るには自転車でも4日はかかるそうです。その後数回にわたりその方に自転車でお寺を巡りました。それが初めての本格的な鎌倉お寺巡りだったのです。
知識が無い僕などはお寺を沢山めぐると飽きてきます。どのお寺も同じに見えてしまいますし鎌倉は武家社会だったためか京都のような雅とか華やかさはありません。
しかもその立地といえば山に囲まれた谷戸が多く、うっそうとした雰囲気の上に湿気が多く緑は多いのですが夏の暑さなど格別です。
そんなお寺の中でひときわその清冽な雰囲気で僕を圧倒したのが東慶寺でした。
それまでは割と好きだったのが妙本寺です。駅から少し離れた場所なので人がわりと少ないこと、敷地が広々としていること。いかにも山の中のお寺のような静けさがあります。
特にここの海棠は見事で、それが咲くシーズンには見逃すのが惜しいほどです。他の人気のお寺と違って海棠の時期でも人が少ないのも良いです。
とはいえここは頼朝から徹底的に皆殺しにされて滅亡した比企一族を祭った寺です。その雰囲気はやはりどんよりとして暗いのです。ところが鎌倉のお寺の中でなぜかまったく暗さを感じることが無く、むしろ清々しい透明な明るさを感じるたった一つのお寺が東慶寺なのです。
その雰囲気はお寺というよりむしろ神社に近いように感じます。その理由は茅葺の門をくぐると続く白い石の参道とその上に広がる大きな空にあるのかもしれません。
不思議なのはこの一本の白い石畳の道はまっすぐ行くと山の中の墓地に続いていていること。
道の突き当たりに本堂がそびえてはいないのです。
本堂は途中の横手にあるのです。その不思議な配置の理由は僕にはわかりませんがそのため一本道が遥か遠くまで続いているように見えます。そしてその道の上に空が広がっているのです。
なんといっても東慶寺を特徴付けるのはいつ訪れてもも何かの花が咲いている美しいその庭です。
なんという素晴らしい庭なのでしょう!といってもその素晴らしさはいかにもという人工的なものではありません。
沢山の向日葵が咲いている場所とかスキー場一面にコスモスが咲いている場所などに行ったことがありますが、それは僕にはどこか知らない別の惑星の風景のように不気味に感じられました。
それに較べるとここの庭は一見ただの野っぱらのように見えるのですが、それがなんとも自然で心温まります。
そしてじっくりと見てみるといつもどこかで何かの花が咲いているのです。これを植えたので見てくださいという作為はここでは見事に隠されています。この手間と技術はそれはたいしたものだと思います。
世界中どこに行ってもこれだけさりげなくひっそりと花が咲いている庭は見ることができないでしょう。
このお寺を訪ねるなら開門の朝8時半ごろか閉門の間際に限ります。朝早くはまだ人が少ないのはもちろんですが、鎌倉は人が引けるのが早いので夕方も思ったより人が少ないのです。
朝や夕暮れの光に照らされた境内に足を踏み入れると、重苦しい他のお寺とは違った穏やかで静謐なゆったりした雰囲気を感じるのは、このお寺がもともとは尼寺だったからかも知れません。
今年のゴールデンウイークにこのお寺を舞台にした井上ひさしの小説【東慶寺花物語】が映画になりました。実際のロケにはこのお寺は使われませんでしたが、これでどっと人が増えるかと心配したのですがそうでもなかったのでほっとしました。
このお寺を訪れる旅に感じるもう一つのことは実に気持ち良く手入れされていることです。
荒れている感じが一切しないのです。人によっては草が伸び放題のように見える庭を見てその逆の印象を受ける方も居るかもしれません。その感じ方こそまさに人様々というものでしょう。
そして手入れの行きとどいた墓地にはいつもあたらしい花がいけられています。有名人のお墓もあるのですが、僕が好きなのは【桜塚】という女性のための合同のお墓です。木立の奥にそっとたたずんでいるこのお墓にはなぜかとても安らぎを感じます。(下の写真が桜塚です)
ほかにもこのお寺にはその理由はわかりませんが、様々な道祖神のような由来の不明な石像が点在しています。まるで忘れられたように墓地の片隅などに立っている雨風にさらされて顔も定かでないような石像もここでは実に満足しているように見えるのです。
(こういう小さい象が点在しています)
というわけで今回は先週訪れた東慶寺の写真を集めてみました。
実はこのブログの中でもすでに何回もこのお寺の写真が登場しています。
ここに来るとどうしても写真を撮りたくなってしまうというのがその理由です。
そしてどの季節に訪れてもそれぞれの季節の顔を見せてくれるのも素敵です。いつ行っても同じ顔しか見せないヨーロッパの教会などと決定的に違うのがそこです。
四季がはっきりしていて植物が豊かな日本の素晴らしさをこれほど身近に味あわせてくれるのですから有難いものです。
鎌倉だっていいじゃない・・と近頃やっと思いだした横浜人の僕でした。
写真を撮りながらブラブラと先に進んで行くのですが、何故か此処まで進むと、
この先には足を踏み入れたらマズイのかなという、何となくそんな感じがします。
突然、前方に岩の壁が迫って来る感じがあって、足を止めるのかなあと思ったりもします。
この辺りも考え尽くさせているのかも知れませんね。
久しぶりに撮りに行きたくなりました。