待望のクレーメルとクレメラータ・バルテイカのコンサート。【ニューシーズンズ】を聞いてきた! |
このブログを書き始めた3年前の11月、その頃に初めてクレーメルの演奏を生で聞いてものすごく感動したのでした。どのくらい感動したかと言えば、そのコンサートを聞いた帰りに翌日の公演のチケットを買ってまた聴きに行ってしまったほどでした。
このコンサートを聴くまではそれほどクレーメルの大ファンだったと言いうわけではありません。
好きになったきっかけは【デ・プロンフィデス~深き淵から】という一枚のアルバムがとても気に入ったから、というのは以前のコンサートの時にも書きました。
その後もピアソラの数枚のアルバムを初めとして僕の好きなシューベルトのヴァイオリンとピアノのための作品集、モーツアルトのヴァイオリン協奏曲集、アフターモーツアルト、アルボスの【樹】などをはじめとしてずいぶんと色々なアルバムを聴きました。
その中で特に気に入っているのは前述の【深き淵から】、ベルトやグラスなどの曲が入った【シレンシオ・沈黙】、チャイコフスキーのピアノ3重奏曲の入ったアルバム、マーラーの10番、ショスコダービッチの14番が入ったアルバム、ロマンテイックエコーというタイトルでリヒャルト・シュトラウスやドボルザークの曲が入ったアルバムなどです。
不思議なのはどのアルバムを聞いてもクレーメルの音に聞こえることです。それは時代にかかわらず彼が作った音楽のジャンルのように聞こえます。たとえばカルロスジョビンの音楽のように。
はるか彼方で風が電線を震わせているかのようなクレーメルの独特な音色は特に現代音楽とのマッチングが良いような気がしますが、逆にチャイコフスキーやドボルザークなどの曲でも彼が演奏すると現代音楽のように聞こえるのも不思議です。
ボブデイランが歌うと誰の曲でも彼の曲のように聞こえるようにクレーメルが演奏するとどの時代の作曲家の曲でもクレーメルの曲のように聞こえてしまいます!
そして彼の手兵たるクレメラータ・バルテイカとの息のあった演奏はスリリングとでもいうべきようなスピード感と快感を与えてくれる絶妙のパートナーなのです。
今回のコンサートは彼の持ち味にぴったりの現代音楽を集めたものばかりなのでいっそう期待が高まります。しかも会場が僕の好きな神奈川県立音楽堂ですからなおさらです。
売り出しと同時に前から数列目の真ん中というかぶりつきに近いような席のチケットを購入してから待つこと半年近く(長いです)、やっとその日がやってきました。
今回のプログラムは【ニューシーズン】というその題の通り、さまざまな四季という題の曲を集めたものですが、その中には一番有名なヴィバルデイの四季は入っていません。
いまさらというわけでしょうが、すべて現代音楽家の曲ばかりという中々通好みと言えるような選曲です。
最初の曲はチャイコフスキーのピアノ曲の四季を現代のロシア作曲家が新たにアレンジしたものです。たまたま先週ラジオからメロデイアスなピアノ曲が流れていてそれがこの曲でした。
ほかにはアメリカで活躍している現代音楽家フィリプス・グラスの作曲による2009年に初めて初演されたという比較的新しい四季、そしてまさに今年初演されたばかりという日本人の作曲家 梅林 茂の作曲による四季、調べてみたらこの方は元ロックバンドEX(イーエックス)のリーダーというすごい過去を持つ人であり、その後映画やTVの音楽で活躍しているのでした。いったいどこでクレーメルとつながっているのか興味深いことですが不明です。
そして最後がクレーメルの得意とするピアソラのヴェノスアイレスの四季です。この曲は相当前のアルバム【エイトシーズン】の中でビバルデイの四季に混じって演奏されているので良く聞いている曲です。
現代曲ばかりというプログラムにも関わらず音楽堂は満席でした。まあ小さいホールで有名なクレーメルですから当たり前といえばあたりまえ、とは言えこの演目でサントリーホールでも公演したはずですがあちらはどうだったのでしょう。とついつい余計な心配をしてしまうのも、クレーメルの大ファンなのでせっかくの凄い演奏がなるべく沢山の人の耳に入るといいなあという気持ちからです。
舞台に全員黒づくめの服装でクレメラータ・バルテイカの団員20数名が出てくると、一気に舞台にヨーロッパそれも東欧あたりの風がさーっと吹いてきたように雰囲気が一変します。
皆背が高く抜けるように白い肌でかつ金髪の方もいるのでそういう感じがするのかも知れません。
この管弦楽団は実にすぴーでいで歯切れの良い演奏をするので大好きです。それはCDで聞いてもとても良くわかるほどです。
このバンド(ついそう呼びたくなる雰囲気があります!)と、アバドが率いていたモーツアルト交響楽団の二つが現代のオーケストラの中で僕が好きなオーケストラです。
残念ながらアバドが亡くなってしまっている現在ではモーツアルト交響楽団はたぶんもう聞くことが出来ないので、クレメラータ・バルテイカのほうは今の内に逃さず聞いておきたいと思っているのです。
一曲目の四季は電気ピアノから始まります。そして打楽器やさらには団員のつぶやきやため息やなども加わるという不思議なアレンジでいきなりクレーメルの世界に引き込まれます。
圧巻は2曲目のフィリプ・グラスの四季でした。実はこの曲、タイトルは四季なのですがどの曲がどの季節なのかというのが決まっていません。聴く人がかってに想像してくださいというわけです。
歯切れの良いリズムと同じメロデイーの繰り返しは、他の現代音楽にも良く存在するパターンですが、これがなんとも気持ちが良いのです。
さらにところどころに入るクレーメルのまるで暗い空をいきなり切り裂く稲妻のような、色ついた麦畑を揺らす穏やかな秋風のような、独奏が素晴らしくて思わず息を飲んでしまいます。
それにしてもクレーメルとクレメラータ・バルテイカの演奏は間違いなく名人芸の領域です。
そのスリルと歯切れの良さはまるでシルクドソレイユの演技を見ているかのようです。
クレーメルが弾くヴィアオリンはこの楽器ってこんな音までするの!と言うくらい多彩な音がします。成層圏を突き抜けるジェットの雲のように細く高い音が出るかと思えば、南米のスコールのような激しい音、はては普通は使わない?ヴァイオリンの後ろのほうを擦ったりとまさに縦横無尽という言葉がぴったりです。
後半はメロデイがやっぱりちょっと日本風と感じる梅林さんの四季、南米のラテン風味たっぷりのピアソラの四季、どちらも迫力ある演奏であっと言う間に時間は過ぎていきます。
子供の頃楽しい時はどうしてこんなにすぐ終わってしまうのだろうと、その時間の流れの速さに驚いていたことがありますが、それは今でも同じこと、素晴らしい時間は一陣の風のように吹き抜けていきます。
聴いているとクレーメルとクレメラータ・バルテイカしか演奏できない音楽の世界というのがあるように感じます。まことに聴きごたえのあるコンサートでした。特に僕が一番印象に残ったのはグラスの四季でした。
こういうのを聞くと現代音楽もいいなと思ってしまいます。
次回来日した時も必ず聴きに行こうと思いながらたっぷりした満足感を胸に、まだバイオリンの響きのざわめきの残っているかのような音楽堂を後にしたのでした。
蛇足ながら今回の写真も東慶寺です。しつこくてすみません!