佐々木忠次さんの訃報を聞いて。 |
上のドブ川のような小さな川は稲瀬川という川が由比が浜に注ぐ場所です。実はこの川はこう見えても北条正子が日がら調整のためにこの川の手前で滞在したり、頼朝が平家討伐に行く源範頼をここで見送ったりと、鎌倉とその外の境界となる重要な川だったのです。今となってはほとんど忘れられたような水路になっています。
佐々木忠次という名前を聞いてどんな人だったかとすぐに思い浮かべることの出来る人は少ないと思われます。僕がクラシック音楽に興味を持ち出してオペラを見たり、バレエを見たりするようなってたまたま読んだ本が佐々木さんが書いた『オペラ・チケットの値段』でした。
この本を読んだ時と東京バレエ団を見に行くようになったのはどちらが先だったかもう憶えていませんが、この本を読んではじめて日本のオペラとバレエの普及に大変な尽力を尽くした人だという事を知ったのです。
彼の訃報を聞いて顔さえも知らない方なのに、なぜかかとても親しくしていた方の訃報を聞いたような気がしたのです。
その時に目の前に浮かんだのがパリ郊外のベルサイユ宮殿の噴水の前で行われた東京バレエ団のモーリスベジャール追悼公演の美しい場面でした。
その時日本のバレエ団がこんな場所でこんな素晴らしい公演を行っているんだ!と驚くと同時にフランスでもこれだけ認められいる事を誇らしくも思ったのです。
その公演を手がけたのが佐々木忠次さんでした。というより東京バレエ団そのものを創設したのが佐々木さんなのです。
そればかりかシュツトガルト・バレエやベジャールのバレエ団などをすでに70年代に日本に招いていたり、世界の有名なバレエ団を日本に招へいしたりしてまさに日本のバレエ界を育てたともいえる人物でした。
つい先日見て感動したミッシェル・ルグランの音楽によるノイマイヤーのバレエ【リリオム】などももちろん彼が日本に呼び寄せたものでした。(とても見応えのある面白い舞台でした)
またパリオペラ座バレエ学校の日本での公演などもとても素晴らしい物でした。パリオペラ座との深い信頼関係がなければこのような公演の実現は不可能だったに違いありません。
特にベジャールやノイマイヤーと佐々木さんの親交は深かったようで、この二人は東京バレエ団のためにオリジナルの作品を創作しています。僕が見た中では【月に寄せる俳句】が新鮮で印象的でした。
佐々木忠次さんには大まかに言っても二つの大きな顔があります。一つは【東京バレエ団】を作ったこと。
もう一つはヨーロッパの超一流オペラの日本公演を実現させたことです。
ヨーロッパでは公演をプロデユースする人を【インプレッサリオ】と呼んで尊敬しているそうです。このインプレッサリオとして一番有名だったのがロシアのセルゲイ・デイアギレフです。
彼はロシアロシアバレエ団を創設し現代バレエを確立したたばかりでなく美術、音楽の分野で偉大な業績を残しています。
佐々木さんがたとえ海外公演で利益を上げとしてもそれは企業家というより東京バレエ団を育てるという目的のためだったのです。東京バレエ団をここまで世界に通用するバレエ団にするには相当な苦労があったはず、その意味でもまさにデイアギレフと同じ意味で真の【インプレッサリオ】だったのです。
佐々木さんの情熱のひとつに芸術への深い理解と日本人に本物を見てほしいという強烈な思いがあったことは間違いありません。
それにしても日本に来るオペラは料金が高すぎるではないか!と内心思っていた僕ですが、この本を読んでなるほどと思いました。
オペラを持ってくるのは舞台上の歌手だけではありません。オーケストラはもちろんの事、舞台装置、衣装、照明、それらすべてが一同の元にやってこなくてはならないのです。
特に彼が招へいしたオペラはまったく妥協することなくヨーロッパの一流のオペラハウスの舞台をそのままに日本で再現しようとしたことで、その規模はまさに引っ越しという言葉がぴったりです。
それだけに費用もかかるというものです。そして一番重要なのは彼が日本に持ってきたオペラやバレエはすべてレベルの高い超一流のものばかりだったという事です。
そういえば僕が新宿にある国立オペラ劇場が好きでないのも、そこで見たものがバレエにしろオペラにしろ僕にはことごとく印象が薄いという事実もあるのですが、元はと言えばこの人の本を読んだからかもしれまん。
国立という名前がついていながら自前のオーケーストラもオペラ団もバレエ団も無い。公演の時には税金をどんどん使って高いギャラで有名どころを集めて即席で舞台を作り上げてしまう。
そんな劇場を国が税金で作って日本にほんとうの芸術が育つものか?という意見はまったくもっともなものだと思います。
しかしこのようにまるで外国人のように悪いものは悪いと歯に衣を着せぬ発言をする佐々木さんは既存の派閥や組織で成り立っているような日本のクラシック音楽業界(ほんとは良く知りません!想像です)にとってはあまりありがたく無い存在に違いありません。
そんなこともあり彼の知名度や評価は日本より海外でのほうがきわめて高いのです。
想像するに彼の人生はまさに既存の組織や価値との戦いだったのだと思われます。
皆が波風立てない事をモットーにしている日本の社会では彼のような強烈な個性を持った存在はいまだに受け入れがたいのだと思うととても残念に思います。
僕がまったく知識もないのに恐れ多くも彼の事をここに書かせていたのは、同じ頃にお亡くなりになった劇演出家はどのTV番組でも溢れてるほど取り上げていたのに、佐々木さんの事はほとんど目につかなかったのが少し残念だったからです。
彼が亡くなった数日後にNHKでバレエの特集番組が放映されたのですが素通りでした。
そんなバレエ特集番組でこそ彼の業績を取り上げて欲しかったのにと思ったのでした。
もちろん僕が書いたところで何の影響力も力もないのですが、なんとなくそのまま通り過ぎてしまうわけには行かないような気がしたのです。
そして僕が佐々木さんの訃報を聞いて言いたいことはただこれだけです。
【オペラは残念ながら高すぎてあまり見られませんでしたが・・素晴らしいバレエを沢山見せてくれて本当にありがとうございました】
お話の内容とは関係無いですが、
鎌倉を訪れるには、また良い季節になりましたね。
お写真を拝見していると、こう感じます。
葉の緑と木の茶色の風景もまたモノクロに似たシンプルな良さがありますね。
紫陽花も咲き始めていることでしょうし。今日明日も仕事ですが、なんとか行きたいところです。
お話の内容とは関係無いですが、
鎌倉を訪れるには、また良い季節になりましたね。
お写真を拝見していると、こう感じます。
葉の緑と木の茶色の風景もまたモノクロに似たシンプルな良さがありますね。
紫陽花も咲き始めていることでしょうし。今日明日も仕事ですが、なんとか行きたいところです。
新緑の季節かと思います?先週の鎌倉は小学生の遠足で混雑してました。ところでモノクロ写真とモノラルレコードって何か繋がっているところがあるのかもしれませんね。そのうちそちらでまたオリジナル盤のモノラルの目の覚めるような音を聞かせてもらいたいものです。