やりたいほうだいのベテラン歌手たち・・ジミーウエッブとエリック・クラプトン。 |
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。さて今回は羨ましくも相当な年齢になっても大活躍しているベテラン二人のお話です。なんといっても60年代から活躍しているボブ・デイランがノーベル賞まで取ってしまう時代です。
デイランといえば先日TVで今から10年くらい前に製作されたデイランのドキュメンタリー映画【NO DIRETION HOME】をやっていました。さすが音楽ドキュメンタリーの傑作【ラスト・ワルツ】を撮った監督マーチン・スコセッシです。インタビューと過去の映像を順番にクロスさせて行く手法で60年代という時代と一人の天才が生まれて行く過程を見事に描いた傑作映画となっていました。
その時代に絶大な人気を誇っていたミュージシャンがいまだに活躍しているのです。一番すごいのはもちろん【ローリング・ストーンズ】ですけど。
指揮者の世界では60歳台はまだまだひよっこ、全盛は70過ぎ?という風潮がありますが、最近ではロックやポップスの歌手でもそんな感じなのですからびっくりです。トニーベネットが85歳で出したニューアルバムを初めベテラン歌手たちの活躍ぶりについては以前も書いたことがありますが、今回は最近になって僕が聴いたちょっと渋いジミ・ーウエッブとエリック・クラプトンのアルバムの話です。
クラプトンは最新のアルバム【I Still Do】(まだやってるぜ!とはすごいタイトルです!)ではなくちょっと昔の2013年発売の『Old Sock』そして同じ年に発売されたジミーウエッブの【Still Within The Sound My Voice】という2枚のアルバムです。
どちらもちょっとノスタルジックな雰囲気を持った意味深なタイトルですが、ともに自分がやりたい曲を自分の好きなアレンジで好きなミュージシャンと一緒にやっているという、言わばやりたい放題のアルバムとなっています。それだけにぐっとリラックスした雰囲気が溢れています。
このくらい有名になると売れなくても大丈夫と割り切るだけの余裕が生まれるのですから羨ましいものです。とはいえクラプトンは知ってるけどジミーウエッブなんて知らないぞ!という人も多いかもしれませんのでここで彼について説明しておきましょう。
彼の作った曲の中で一番僕が親しんでいたのがカントリーの名曲として良く知られている「By the Time I Get to Phoenix」です。ジョニーリヴァースが1966年のアルバムで歌いヒットさせた曲ですが、むしろその後にグレンキャンベルが歌ってヒットさせたヴーァションの方が有名かも知れません。
【僕がちょうどフェニックスに着くころ、彼女は起きてベッドサイドにあるメモを見つけるだろう、僕は行ってしまうというそのメモを見て彼女は笑うかも知れない。いつだって彼女をほうっておいたのだから・・僕がアルバカーキに着く頃・・】と彼女を残して旅立ってしまった男が旅先で彼女の事を考えながら歌うという内容なのですが、実際の地名がいくつか出てくるのが旅情をそそる中々生活感に溢れた歌詞です。
もう一つ有名な曲が同じくグレンキャンベルが歌ってヒットした【ウイチタ ラインマン】です。ラインマンとは電話線の保守をしている人でこちらの歌詞はこんな内容です。【僕はこの州の電話線を守ってる。日がなステーツラインを車で走って、回線がオーバーロードしてるところはないかと探してる。ノイズの向こう側で電話線の中を流れる歌も聞くし、そうやってウイチタラインマンは電話線をつないでいるんだ】とこちらもなかなか生活感のある良い詩です。
まるで日常生活のドキュメンタリー映画の一場面のような情景を描くのがジミーウエッブの特徴ですが、それは彼がただの作曲家ではなく、詩と曲の両方を書くシンガーソングライターだからでしょう。
フィフスデイメンションでヒットした【ビートでジャンプ、邦題UP UP AND WAY】も彼の曲だそうですが、僕は曲調から言ってこの曲はすっかりバートバカラックかと思っていました!
というわけで紹介が長くなってしまいました、本来は曲作りが本職ですが歌手としても数枚のアルバムを出しています。彼が2010年にリリースしたアルバム【Just Across the River】はヴィンス・ギル、ビリー・ジョエル、ウイリー・ネルソン、ルシンダ・ウィリアムス、グレン・キャンベル、マイケル・マクドナルド、マーク・ノップラー、JDサウザー、リンダ・ロンシュッタットなどのそうそうたるゲストと共演した素敵なアルバムでした。
今回のアルバム【StillWithin The Sound My Voice】もまた豪華なゲストを呼んで自作の曲を気持ち良く歌いまくっています。
ビーチボーイズの大物ブライアン・ウイルソン、サイモンとガーファンクルのアートガーファンクル、クロスビー&ナッシュ、ジョーコッカー、カーリーサイモン、エイミーグラント、などをはじめカントリーの大物クリス・クリスファーソン、アメリカ、などそうそうたるメンバーなのですが、前回と違いこれほど豪華なメンバーなのに目立つのはジミーウエッブのボーカルだけ!という贅沢なゲストの使い方がすごいです!
中でも面白いのがブライアンウイルソンとの共演で、ウイルソンは主にアレンジを担当したんでしょうか?と思われるほどで、バックコーラスにいかにもビーチボーイズ風のコーラスが聞こえるというだけの地味な使われ方なのです。
それにしてもまるでビーチボーイズのように聞こえるのがおかしいです。しかもこの曲の間奏がまたすごいのです。メロデイアスな曲なのにいきなりカントリー風味全開の威勢の良いドブロギター弾きまくりという意表をついた展開に度肝を抜かれます。
なんだそれならつまらないアルバムじゃないの?と思うとさにあらず。この豪華ゲストたちがどこで腕を奮っているかという楽しみに加え、バックのミュージシャンの演奏の質が高いので伴奏だけでも十分楽しめるのです。内容の濃いなかなかたいしたアルバムなのです。
さてエリッククラプトンの『Old Sock』もまた豪華なゲストを揃えています。というより以前から共演している仲間とも言えるJJ・ケイル、ステーブン・ウインウッド、ポールマッカートニーなどです。
ゲスト陣の数という点ではジミーウエッブより地味ですが、その代わりこちらは選曲とアレンジがやりたい放題なのです。選曲はまるでアメリカ音楽の歴史を振り返るように様々な分野の曲がちりばめられています。珍しいのはアメリカンフォークミュージックの原点といえるウデイガスリーの【グッド・ナイト・アイリーン】とJAZZの古典ともいえる【ALL OF ME】が取り上げられている事。そしてアメリカのスタンダード音楽として外すことの出来ないジェロームカーンとオスカーハーマンスタインⅡ、ジョージとアイラのガーシュイン兄弟による曲が収録されていることです。
イギリス人のクラプトンの原点は間違いなくアメリカのブルースにあるのですが、それ以外にもアメリカ音楽そのものに深い敬意を払っているというのが選曲を見ると良くわかります。
さらに興味深いのはギターの達人であるにもかかわらずこのアルバムではギターを弾きまくることがほとんどなく、それが物足りなく感じるほどです。一言で言うと実に地味で渋いアレンジで仕上ているのです。
これくらい有名になるともはやテクニックなど見せつけることなくよりシンプルなものになって行くのでしょう。そういえばボブデイランがフランク・シナトラの曲を歌ったアルバムも実に渋い仕上がりでした。
このアルバムでは僕の好きなJAZZの【Our love is Here to Stay】が入っています。
アメリカのスタンダード曲の看板といも言えるガーシュイン兄弟の作詞作曲による名曲で、【いつかロッキー山脈が崩れて、ジブラルタル海峡が決壊してもとの海に戻っても僕らの愛は不滅 永遠に不滅だ】といういかにもアイラ・ガーシュインらしい表現の素敵な歌詞を持った曲です。ところがクラプトンの演奏だと聞きなれたこの曲がまるで別の曲のように聞こえます。さすが大御所たとえスタンダードの名曲と言えども普通には演奏しないのです。
とうわけでこちらもいかにもベテランが好きなように作りましたという大物感に溢れた渋いアルバムとなっているのです。このように才能のある方々が年をめされてもやりたい放題をやっているのは、はたからみていても(聞いていても)なかなか楽しいものです。年の初めに彼らのアルバムを聞いてたとえ才能jのない僕でもすこしは近づきたいものだと思ったのでした。