ドビッシーとかラベルとかフランスの作曲家は、なぜかかっこ良く聞こえるので小説の題にもつかわれたりします。
小説の【さよならドビッシー】も映画化されたりTVドラマになったりしています。
今回の題もドビッシーを聞きに・・というとなんだか、それとなく高尚でかっこよく聞こえるのですが、川崎まで足を伸ばすのにはもう一つ理由があります。
それは川崎にアメリカの米国風チャイニーズのファーストフードチェーン店の【パンダ エクスプレス】があるからなのです。
というとなんという、くだらない理由かと思うでしょうが、そのとおりです。
たかがアメリカのジャンク・フードです、わざわざ食べに出かけて行くには、あまりにお手軽でチープな食べ物と言えるでしょう。
そこでわざわざミューザに行くという用事を作るのですから本末転倒です。
海外に旅行に行った時、ぼくの場合は不思議に日本食を食べたくなることはないのです。その代わりに食べたくなるのが中華料理です。
米国を旅行中に必ず一度が入るのが中華料理店ですが、このレベルというのも千差万別です。
安くて美味しいところもあるし、高くてまずいところもあるのは日本にいても同じことですが、その点このパンダ・エクスプレスは安いわりにはそこそこ、というより、もっと積極的に美味しいのです。
とはいえ僕が行っていたのはいつも同じ場所、カリフォルニアのナパにあるお店です。ファーストフードとはいえそのお店で炒めたりして調理しているので同じアメリカでも場所によって随分と違うようですが、この川崎レゾーナにあるお店はそこそこのレベルと言えます。
とはいえこれは本格的な中華料理とはちがいます。あくまでアメリカ風中華料理なのです。
それが一番良くわかるのがこのお店の看板メニューとも言える【オレンジ・チキン】です。
パリパリに揚げてあるチキンのから揚げなのですが、まわりにオレンジとハニーで作ったような甘いソースがたっぷり絡めてあります。
まるでお菓子のように甘いので、甘い味付けが苦手な方は思わず腰が引けるほどですが、好きな人にはこの甘さがたまりません。
ここのシステムは基本的にチャーハンか焼そばに、おかずが2品または3品が選べるのですが、リクエストすればチャーハンと焼きそばを半分づつにできるのもアメリカ流です。追加料金でビーフと野菜の炒め物なども頼めますが、これもなかなかの味、こちらは甘くないのでバランスが取れます。
追加料金なしでは定番のナスと厚揚げの炒め物もいけます。
プラステイックのお皿の上にテンコ盛りになった料理を甘いコーラーで流し込むのですが、これを食べているとアメリカに旅行に来ているような気分になれるのがお得です?
というわけで、今回の題は本当は【パンダ・エクスプレスをたべにラゾーナ川崎に行ったこと】と書く方がより正しいのかもしれませんが、人間どうしてもかっこよく見せたいもので、ついドビッシーを前面に出してしまうのもしかたがないことです?。
たっぷりとお昼を食べたので、これは危険な演奏会になりそうだ(寝てしまいそうで)という予感を胸にお隣のビルのミューザ川崎に向かったのでした。
実は僕はピアノ曲はなんとなく苦手であまり聞かないのですが、なかでも難しく感じるのがドビッシーやラベルのピアノ曲です。
だからパスカル・ロジェなど聞いたことはなかったかと言うと、そうでもなく、ピアノに一つでも楽器が加わるととたんに好きな曲になってしまうのですから不思議です。
ということでプーランクの室内楽は好きで、中でも特にピアノとフルートのソナタとかは大好きです。そのCDでピアノを弾いているのがこのパスカル・ロジェなのです。
県立音楽堂と違って大きなキャパを持つミューザですから、ピアノの独奏でははかなり空席が目立つのではと予想していたのですが、さにあらず8,9割は埋まっているではないですか。
女性客のほうが多いのもクラシックのコンサートでは珍しいことに感じられます。
ピアノは教えていたり習っていたりとやはり女性に人気があることがわかります。
それにしても日本というのはすごい国です。これだけの数のコンサートホールやライブハウスがある国がほかにあるのでしょうか?
そのどれもで毎日のようにコンサートがあるのに、そのどれもがそこそこ人が入っているのですからすごいです。
もう一つ欧米ではカップルがほとんどなのに日本のコンサートでは一人で来ている人や女性同士、男性同士がかなりいるのも特徴的かもしれません。
前置きが長くなりました。いよいよコンサートについて書かねばならないのですが、なんせピアノの独奏にはまったく弱い僕の事です。
残念ですが演奏についてとやかく書けるだけの知識も筆力もありません。
音楽についてはともかくとして、こういうコンサートを聞くと人間の能力というのは想像もできないほどすごいものだと言うのがよくわかります。
パスカル・ロジェは休憩をはさんで2時間の間、まったく楽譜を見ずに曲順も間違えずにこの難しい曲をひたすら弾き続けたのでした。
たった一曲の英語の歌詞さえ覚えられない僕にとってそれはまさに驚異です。(そんなことに感心しているようでは、しょうもありませんけど)
それにしてもロジェの演奏は滑らかです。
ドビッシーのピアノ曲はまるでこんこんと湧きだす泉のように、音が湧いたと思ったら空中に消え、それが次々と切れ目なく永遠に続いて行きます。それは誰かがピアノを弾いているのではなく、ピアノが自分で喜々として鳴っているようにさえ聞こえます。
実に自由で伸びやかな音楽です。
とはいえメロデイがはっきりしているのは一部分だけなので、流れる風に身を任せるように音に浸っていると、その気持ちの良さにおもわず意識を失っています。
ジャンクフードをたらふく詰め込んだお腹にはドビッシーのピアノ曲はやはり危険でした!
これは実に気持ちの良い体験なのですが猫に小判というか、もったいないことでもあります。
流れるような演奏が終わりアンコールで演奏されたのがサテイのジムノペデイです。
ピアノ曲初心者の僕はこういうシンプルでわかりやすいメロデイが出てきてやっとほっとしたのでした。
とはいえこんなシンプルな曲でコンサートを締めくくるロジェではありません。
最後にもう一曲、もっと激しく難しいドビッシーの曲(不明?)を演奏し、最後の音を叩きつけるように弾くと即座に立ち上がり一礼したのでした。ピアノ好きには聴き応えのあるコンサートだったはずです。
普段聞きなれていない音楽を、ぶっつけ本番で聞くのはもったいない、普段からもっとドビッシーのピアノ曲に親しんでいれば、もっと楽しめたのにと、深く反省した今回のコンサートでした。
というわけで今はドビッシーのピアノ曲のアルバムを物色しているところです。
(梅雨時は空が燃え上がるような夕暮れが多い気がします。今回の夕空は会社帰りのバス停から撮ったものです。)