日本ならではの優しさを持った物語の語り部、萩原規子の‘風神秘抄’ |
今年のお正月はいつになく初詣の人が多かったようで、どこの神社の前も長い列ができていたそうです。
まったく日本人はほんとに信心深いな、と思いますけど、いったい何の宗教に信心深いのかとなるとなんとも答えられないのが不思議です。ところが先日読んだある本によれば、その原因は明治時代の神仏分離にあるらしいのです!
日本に伝来してきた仏教は深く神道の中に入り込み、それはもはや分かち難いほどまじりあって日本人の宗教を形成してきました。例えばその証拠として現在でも浅草の浅草寺の境内の中に神社が残っているそうです。ところが神仏分離によって二つの違った宗教に分けられてしまったことにより日本人の宗教観に混乱が起きてしまったのです。
たとえば今、外国人に何の宗教と聞かれても、お正月には神社に行って、お葬式を仏教で揚げているわれわれには、なんとも答えることが出来ないではないですか!ところがこの普段みんながやっているお正月は神社、お盆やお葬式はお寺というのを一つの宗教として考えると実は日本人はものすごい信心深い国民になってしまうそうで、なるほどそう聞くとなかなか説得力のある意見のように思われます。
荻原規子の小説の特徴は、何でも受け入れて取りこんでしまうという日本独特の宗教観、もしくは日本的なおおらかさとでもい言うような物がその底に流れていることです。それはほとんど母性的包容力とも言えるような優しさと同じように感じます。
海外の少年少女向けの小説、たとえば指輪物語などではたいてい悪と善の対立が二元的に描かれています。ところが彼女の小説では悪は必ずしも悪でなかったり、敵が味方になったりと実にころころとその立場が入れ替わるのです。それは西洋の世界のように悪魔と神が対決する二元的世界ではなく、悪魔は時には神になり、神が悪魔になったりする、多次元的な世界なのです。そしてその背後にはそれをすべて包括して包み込む菩薩のような母の存在を感じるのです。これは一神教の神の国には存在しえない包容力のある概念なのではと思われます。
ジュブナイル小説にこんな素晴らしい世界が描かれていたなんて!しかも大人の小説として読んでも十分面白いのですからたまりません。
僕が萩原規子のことを初めて知ったのはNHK.FMのラジオドラマで‘これは王国の鍵’を聞いてからです。
たまたま聞いたこのドラマが面白くて原作を読んでみようと思ったのが始まり。
その後すっかり彼女のファンになり、すべてを読破したのです。とはいえ読みやすくて面白いので間単に読めてしまうので威張れるような事ではありませんけど。
ところが彼女の作品を読む上での大きな関門はその装丁にあります。まるで少女コミックのような可愛い女の子のイラストが表紙になっているものが多く、これを大の大人、しかも男が電車の中やカフェで広げるのにはかなりの抵抗があります。僕だってなにも知らなければこのような可愛げな少女マンガのような本にはけして手を出さなかったはずです。そうなんです。彼女の本のジャンルはすべて少年少女向け、いわゆるジュブナイルなので、大人の男が読むチャンスはさらに少なくなります
しかし読んでみると驚くことにその世界は深く、けして少年少女向けのレベルではないことに気がつくのです。僕がこのブログで取りあげた訳もそこにあります。
様々な宗教を取りこんで自分のものにしてきた、ある意味大変おおらかと言える日本の宗教、萩原規子の小説は舞台を日本の神話時代に取るものも多く、特に勾玉三部作といわれる三作品、とその続編のような風神秘抄には、黄泉の世界と現実の世界の接点が曖昧にまじりあいそれは日本人の宗教観と、どこか奥深い場所で共鳴しているように感じられます。
この勾玉3部作も面白いのですが、あえて表題に風神秘抄をあげたのはこの本にはとりわけ記憶に残る美しいシーンがあるからです。それは処刑場だった河原で主人公の男女が鎮魂の舞いを踊るシーンです。
男は笛を女人は舞いを、その世にも美しい音色と踊りによって異次元と現世が繋がるのです。その場所には光が差し込み天から無数の曼珠沙華の花が降り注いでいます、その中で無心に踊る少女。
少年の吹く笛の音と少女の舞いが黄泉の国と現世を繋いでしまうという恐ろしくも美しい場面でした。
というわけでSFやファンタジーが苦手でない方には実にお勧めで、ということはその逆の方にはまったく駄目な本だと思われます。ご注意を!
最近の作品‘RDG・レッドデーターガール(何とも言えないネーミングでしょう。さすがの僕もこの題名にはかなり引いてしまいました!)ですが、このレッドデーターとは絶滅危惧種の事だそうで、この主人公たる少女はまさに絶滅種?世界を支配する姫神になれる、もしくは姫神の分身なのです。神社で育った彼女には強い味方がいます。それは山伏として姫神を助ける少年です。人間としての主人公たちが神やそれを守る役割と普通の人間としての間で葛藤する物語です。舞台は基本的には学園ですが、すぐ異次元に移転したり、登場人物は様々な氏神や魔物だったりと不思議な世界が広がります。もちろん何が善で何が悪なのかはころころと変化します。
このRDG・レッドデーターガールまだ4巻までしか発売されていませんが、このままで行くと10巻くらいは続きそうです?
そして4月からはTVでアニメ化されて放映されるそうなので、ご興味ある方はまずTVでどうぞ。もっともいい年した大人がこんなアニメを一生懸命見てたら何と思われることやら!
困ったことに世の中、面白いことがいろんな分野にあるものです。