こんな素晴らしい日本映画、知らなかった!渋谷 実という映画監督 |

NHKの受信料ほど無駄なものはないと思っていたのですが?、最近時々放送される山田洋二監督が選んだ日本映画100本の中には、僕がまったく知らずに今まできて、こんな素晴らしい作品があったのかと驚いた映画がいくつかあります。
これは新しい発見で、NHKもなかなかやるなと思いました!
古くからの映画ファンには何を今さら、今頃お前は何を言っているんだ!などと言われてしまいそうですけど僕にとってはそれはまさに発見です。
ほんとに遅いですけど昔の日本映画にもこんなにおもしろい映画があったのかと気がついたのでした。
その中の一つが渋谷監督の2作品でした。
井伏鱒二は好きな作家でした。何となく飄々として、あまり深刻ぶらないところが当時の純文学とはだいぶ毛色が違っているように感じます。
つい何度も読んで仕舞うのは、文章がうまいのでしょう。
中でも骨董品屋が主人公の「珍品堂主人」と旅館の番頭たちを描いた「駅前旅館」の二つが特に好きで、何度読み返しても面白い小説です。
ある程度時間がたつとまた読みたくなるという典型的な本のひとつです。
自分が惚れた品物が本物か偽物か微妙なところ、たとえだまされたとしてもかまわないと自分のために手にいれてしまう。
骨董屋の主人でもそんな気持ちになるところがとても印象的でした。
その井伏鱒二の「本日休診」を映画化したのが渋谷 実監督です。
井伏鱒二の飄々とした感じが、ものすごくうまく出ているという訳ではありませんが、これはこれで凄い作品でした。
渋谷監督はけして必要以上に深刻ぶらず、声高に叫ぶような事もなく、そういう意味では淡々とした井伏鱒二の雰囲気と共通するものがあるのですが、もっとずっと何もかもが濃い感じがします。
確かになんらかの強いメッセージは発せられているのですが、それが言葉としてでなく夕暮れの光のようにすっと体に入ってくるのです。
そして今みると登場人物の存在感がものすごくあるのにも驚きます。
これには監督の力も大いにあるのですが、当時の俳優の演技のうまさも現在とは較べものにならないように思われます。
これほど昔の日本映画に力があるとは思いませんでした。
しかし何よりも昔の映画を見ていて面白いのはその時代がありのまま写っていることです。
それは風景の面白さ、ああ!昔のあの場所はこんなだったんだ、というような懐かしい面白さもあるのですが、一番面白いのは登場人物そのものが、その時代にしか存在しえない人たちだと言うことにあるようです。
金銭にかかわりなく貧しい人たちのために惜しげもなく働くお医者さん。
自分を投げ打って人のために働くという主人公は、この時代の映画にはわりと良く登場します。
その主人公がリアリテイを持つ存在であるためには、その時代が必要なのです。
まさにその時代が必要としたキャラクターと言えるのでしょう。
そういう登場人物たちを見て、現代という時代がどんなリアリテイある主人公を生んでいるかと考えると、そうとう背筋が冷たくなる気がします。
同じ渋谷監督の「好人好日」も素晴らしい映画でした。
小津映画だけで目立っていたと思っていた?笠智衆がここでは数学の教授にふんして学者馬鹿を演じます。
この人の凄さもいまさら語る事はないのですが、他の映画でもそうであるように、ここでもまったくその数学者本人のように見えます。
笠智衆は、どの映画でみてもまさに登場人物本人のように見えるという稀有な役者でしょう。
僕がまだ彼を知らなかった頃、寅さんに登場する和尚さんを見て、そのあまりの自然さにこれはどっかの和尚さんが特別出演しているものだとばかり思っていました!お恥ずかしいお話ですけど。
数学以外にはまったく無頓着で、まるで子供のように正直な教授が勲章をもらいに東京に出る話と、その娘の結婚話が教授のとぼけた行動と共に語られて行きます。
勲章を盗まれたり、それを泥棒が返しに来たりと、登場人物に本当の悪人は出てきません。
渋谷監督の映画には日本映画の特徴である涙を誘導するような演出はありません。
軽いほのぼのとしたタッチなのですがその実直さはシンプルであるようでいて実に計算されていて、かつ力強いのです。
有名な小津監督の作品のようにこの映画も淡々と進んで行くのですが、違うのは彼の作品には救いというか、人の良さのような暖かさが全編を一つのトーンとして流れていることでしょう。
小津監督ほどドライではなく木下恵介監督ほどウエットではないというところでしょうか?
いずれにしろ、それが良くある単なるお涙ちょうだい物語でないところが、僕の大好きなところです。
それでいて何かしら心を打つようなものがあるのですから不思議です。
涙の無い喜劇が日本ではあまり評価されないと指摘したのは小林信彦でしたが、この監督がそれほど有名でないのもそのためなのでしょうか?
恥ずかしながら今回この2作品をみる前まではこの監督の名前は聞いた事がありませんでした。
その方面の方には有名なのでしょうが、こんな凄い監督が日本の映画界にいたなんて、日本映画にもまだまだ知らないでいて面白いものがありそうです。
楽しみなことです
