寒さが戻った春の夜、聖金曜日にふさわしい音楽を聞く! バッハ・コレギアム・ジャパンのヨハネ受難曲。 |
バッハのヨハネ受難曲を聞いてきました。
演奏は定評のあるバッハ・コレギアム・ジヤパン
そしてその日は復活祭を直前にひかえ敬虔な気持ちでキリストの受難を思い起こすためのキリスト教の記念日、「聖金曜日」という受難曲にもっともふさわしい日でした。
コレギアム・ジャパンはさすがに安定して重心の低い、なんら奇をてらったこと無く細部まできちんと気持ちの通った演奏をします。
ホールが以前モーツアルトのミサ曲ハ短調を聞いたとき音が上に抜けてしまい、あまり印象の良くなかったホールだったので少々心配だったのですが、このチケットを取った方がこのホールでは一番音が良いと人から聞いた演奏者のほぼ真横の二階席だったので良く見えるばかりか、声も楽器も上空に拡散する前にエネルギーを残したまま耳に入ってきました。
なるほど音が悪いと敬遠しているホールでも場所によっては良く聞こえることもあるようです。思い込みは損をすることが多いようです。
受難曲はキリストの受難とその意味を、「どうだ神さまだって人間のためにこんなに苦難を受けているんだぞ、何と有難いことか!」と強くアピールする曲なので?どうしても聞いていると背筋がぴんと伸びてしまいます。
会場もまるで教会のように静まり返って真剣なまなざしと引き締まったエネルギーで溢れているように感じられます。
その証拠にふだんは煩いくらいに耳につく咳の音などまったく聞こえないではないですか!これぞバッハの偉大な力?
コレギアムジャパンの演奏を聞いていると、コーラス約20名、演奏も約20名総勢、40名くらいという規模がまさにこの曲にぴったりと合った編成のように聞こえます。
フルートトラベルソやオーボレダモーレなどのオリジナル楽器は現代の楽器に較べるとあまりにも柔らかい音なので、最初はあれっとおもうくらい頼りなく聞こえますが、聞くにつれ、この二つの柔らかい音色の合奏に、良く響くバイオリンやチェロが絡んでくる時の美しさはたとえようもないような快感となってきます。
現代楽器と較べるとガットギターとエレキギターくらいの差があるので、ポピュラーでいうなら普通のオーケストラをエレキサウンドとすれば?こちらはアンプラグドコンサートと呼びたくなるほど雰囲気がちがいます。
そのオリジナル楽器の独特な音色の伴奏に、心のこもった良く通る声の独唱が入り、さらにそこに気合の入った重厚なコーラスが加わってくるのですから、その音の競演だけでも感動的にならないはずはありません。
鈴木雅明の指揮は情熱的でありながら、けして理性を失うことなくまさに的確にぴしっとエッジを立てクリアーに輪郭を描いて行きます。
良い音楽を聞かせたいというおもいがすみずみまで溢れているような、けして華美ではありませんが、ずっしりと心に響いてくるような良い演奏でした。
教会音楽を聞くとどうして敬虔な気持ちになるのかとても不思議です。
そういう風に感じられるよう、テクニックの限りを尽くして作られているのですから当たり前といえばあたり前なのですけど、キリスト教とまったく関係ない(たぶん)日本人が、あまりポピュラーとは言えないヨハネ受難曲を聞くために、大ホールがいっぱいになるほど集まるのですから間違いなく宗教音楽は宗教を超越した魅力があるのに違いありません。
とはいえ西洋音楽はキリスト教を親として育ってきたのですから、西洋音楽好きが宗教曲を普通に聞くのはあたりまえかもしれません。
というわけで絶大なエネルギーと優秀な人材がつぎ込まれた宗教音楽(キリスト教の)にはバッハ以外にも素晴らしい曲が沢山あります。
またその音楽から神を賛美する敬虔な気持ちだけでなく、何かもっと別なもの?たとえばひたすら美への賛美とか、伝統的な教会音楽の枠をあえて超えようとしているもの、
そんな人間臭いものがちらちら出てきてしまうような宗教曲もあるような気がするのですが?
そんな宗教音楽の中でも僕が好きなのはカンプラ作曲のレクエイムです。
その美しさはたとえようもなく美しく、あまたあるレクエイムのなかでも飛びぬけているように感じられます。
もっともこの曲を知ったのはクラシックの先生Iさんの受け売りでして、彼はこの曲の美しさに高校時代から魅せられているそうです。
これほどの名曲がなぜそれほどポピュラーでないのかちょっと不思議なほどです。
演奏はやっぱりパイヤール指揮のものを最初に聞いたのでこれが一番しっくりきます。ほかにもオリジナル楽器によるガーデイナー指揮などもありますが、とろっとした甘美なパイヤールが好きです。
同じレクエイムといっても、雄大で豪華で、ははっーとひれ伏して聞くようなベルデイやベルリオーズのようなものもあり、あまりの悲しさに聞くのが辛くなるほどなのであまり聞かない?モーツアルトのもの、美しくて斬新で宗教音楽というよりはコンサート音楽のように聞こえるフォーレのものなど様々で、僕はあまり派手なものは苦手なのですが、それこそ人によって好みが分かれる事でしょう。
カンプラのものはその中間というのでしょうか、レクイエムにしては実に穏やかでかつ甘美なのです。
最近人に教わってFUXのレクエイムというのを聞きました。これはいかにもコテコテの正統派の宗教曲でしたが、とても良い曲でした。
ミサ曲といってもバッハのミサ曲ロ短調のようなどこから見ても真面目で素晴らしいミサ曲もありますが、あまりミサ曲らしくないのが、モーツアルトのミサ曲ハ短調で、まるでオペラのアリアのような歌とドラマチックなオーケストレーションが魅力的です。
シューベルトのミサ曲2番D167も地味ですがとても好きなミサ曲です。
美しすぎて信仰の妨げになるので教会にはふさわしくないとまで言われた?ペルゴレージやスカラッテイのスターバトマーテルもミサ曲ではありませんが、ちょっと宗教音楽の範疇からはみ出しているかも知れません。
というように同じ宗教音楽といえども神への信仰を真面目にひたすら敬虔に歌いあげるのもあれば、ちょっとばっかり情熱がはみ出して、まるで恋の歌のように聞こえるものまであるのですから?色々聞いて見るとなかなか興味がつきません。