ただ面白いだけは名作にならない理由,サボテン・ブラザースとスペースクエスト |
世の中には「ためになること」や「役に立つこと」もしくは「感動する」ことなどが一般的にえらいこととされているようでただ「面白い」というだけではなかなか評価してもらえないようです。
そういう理由から特に「喜劇(コメデイ)」は感動的なドラマなどとくらべると低い位置に見られていて、これが「名画」の範疇になかなか入らないのは残念なことです。
確かに面白いだけというのは何の役にもたたないのですけど、世の中はつまらない物ばかりで溢れているのですからたまにしか見あたらない、こういう面白いものにはもっと暖かい評価がほしいと思いますけど。
そんな忘れたような映画の中でも特にばかばかしくも面白くて記憶に残る映画が何本かあります。
実際思い出して見てもほんとにくだらなくて、しょうもない映画なのですが、なぜかとても好きでした。
そんな中のひとつが「サボテン・ブラザース」です。
3人の映画俳優の活躍を映画で見た田舎のメキシコ人が、本当に強い人たちだと信じて、山賊に襲われている村を守って欲しいと頼むのです。
いわば「7人の侍」というか「荒野の7人」のパロデイです。
原題はスリーアミーゴ(3人の仲間)ですから名前からしてそうです。
キラキラのラメ入りの服に身をつつんだ三人は撮影だと勘違いし、勇んで村におもむくのですけど、本物の山賊にあっと言う間にやられてしまい、村人の冷たい視線をあびながらすごすごと村を逃げ去るのです。
しかしこの後、3人は立ち直り再び村に戻り、村人たちと協力しながらついには山賊とをやっつけてしまうのです。めでたしめでたし。
まったく良くあるパターンであらすじを書いているだけでうんざりしてしまうほどなのに、これを面白く見せるのですからたいしたもの。
印象深いシーンは3人が村から追い出され荒野で野営している場面です。
たき火を囲みながらギターを弾いて歌を歌います。そらには輝く月、歌におおかみも加わります。作りもの感いっぱいでまるで昔の漫画映画の一シーンのように撮られています。
どうやったら面白く見てもらえるかを真剣に考えて作っているのが良くわかる映画です。
この3人にふんするのが日本ではほとんど知られていませんが、アメリカのコメデイでは圧倒的に人気のある3人です。
ステイーブ・マーテイン、マーテイン・ショート、チエビー・チェイスというひと癖もふた癖もある豪華な配役。
くどい演技が鼻につくことも多いのですが、3人いるのでかえってお互いの個性が薄れていい塩梅になっています?
僕が好きなのはチェビーチェイスで他の二人に較べ演技が控え目?なのが好きで、彼の出演する映画はなるべく見るようにしているほどです。
中でも彼の主演したヒッチコックへのオマージュでもある?サスペンスコメデイの傑作、「ファールプレイ」は何度見ても面白い映画でした。
昔フロリダのユニバーサルスタジオに行った時、画面でスタジオツアーの案内をするのがこのチェビーチエイスでした。日本人はたぶんだれも知らないだろうなと思ったのを覚えています。
駄目な3人組が最後には立派になるというストーリーをこれだけ馬鹿馬鹿しく、くったくなく正面からきっちりと描いた映画も珍しいのでは。ラストーシーンでは思わず拍手してしまうほどです!
もう一つ好きだった映画が「ギャラクシークエスト」なのですが、今改めて考えてみると、というかそれに気が付かなかった僕があまりにもうかつなんですけど、この二つの映画、シチュエーションとかストーリーとかがまったく同じなんですね!
こちらは「スタートレック」のパロデイなのですが、こちらも見るからに凶悪な宇宙人に襲われて困っている善良な宇宙人が、TVに出ている彼らの活躍を見て救って欲しい頼みに来るのです。
時々本来のタコの手のようなものがチラチラと出てしまうのがご愛嬌。そしてそのキャラは純情で朴訥、まことにいいやつなのです。
こちらも正体がばれて散々な目に合うのですが、最後には奮起して悪い宇宙人をやっつけてしまいます。
これって寸部違わず「サボテンブラーザース」と同じですね。
こうやってみると元ネタである黒沢明の「7人の侍」がいかに偉大な作品だったかがわかります。
にもかかわらず同じストーリーでこんなふざけた映画が2本も出来てしまうのですから、別の意味で人間のすごさというのがわかるというものです?
しかも2本とも気を抜かないで実に真剣に面白く作られているのが素晴らしい!
どうやら駄目な輩が集まって、最初はどうしようもなかったり、みじめに負けたりしながらも、最後は何かやり遂げるというパターンが僕は大好きなようです。
考えてみると、この駄目なやつが最後は成功するというパターンはコメデイには数限りなくあるではないですか。
強いやつから見るとなんて馬鹿なやつらだと思うだけでしょうが、僕なんかは実に身につまされてしまうのです。
こういう弱者の切なさ、見たいなものを深刻ぶらずに一時の夢として笑い飛ばしてしまうコメデイが好きなのです。それがコメデイのだいご味だと思うのですけど!
しかし一般的には涙が出てこない笑いだけのコメデイは一ランク下のように思われることが多いのが残念です。
もっともそれがたんなる悪ふざけで終わってしまう、しょうもないコメデイも実におおいのですけど。
究極のコメデイは馬鹿馬鹿しいストリーを世にも美しい音楽で彩った「コシ ファン トゥッテ」かも知れません。
この不思議なラストシーンに笑いながらも、なんとなくうすら寒いものが漂ってくるのを感じるのは僕だけではないと思います。
僕の一番好きなオペラの一つです。