Arrivederci(また合う日まで!) イル・マンジャーレ |
僕の知っているたった二つしかない高級?レストランのうちの一つイル・マンジャーレが11月いっぱいでお店を閉めることになりました。そこにはUシェフしかわからない様々な事情があったことでしょうが、はたから見ていて忙しすぎるように見えたことだけは確かです。
いつもそんなに目いっぱい頑張らなくても!と思いましたが、常に新しい物を作り出さずにはいられないUシェフにとってゆっくりと、ひとところに留まっていることは出来なかったのでしょう
それはただの料理というより、絵画や作曲のように芸術活動と同じ範疇のものだったと思います。
驚くのは僕がそのシェフを知ってから少なくとも20年近く経っているというのに、まったく同じ料理を食べたことがほとんどないことです。いまだにこんな料理あるんだ!と食べるたびに驚きます。
そして盛りつけの美しさもどんどんと進化してきます。最近のまるで花の咲き乱れる庭のような盛りつけは食べるのがほんとうにもったいないほどです。
しかしいつも一番うれしく思うのは、彼の料理には食べる人を楽しませたいという仕掛けや思いがたっぷりと詰まっていることです。
食べるだけにひたすら集中していると2時間があっと言う間に経ってしまいます。普段20分程度で食事を済ませてしまう僕が気がつくと2時間経っているのです。
しかも人より少し少量しか食べられないのにここではまるでグルマンのように食べ続けてしまうのです。会話も「美味しいね!」だけで持ってしまうという不思議さ。
それはまるでベルデイのオペラを見た後のように豪華で充実した時間なのです。
食べるだけ幸せになれるというのは本当に貴重なチャンスです。
聞くだけで幸せになれるコンサートというのがとても少ないように、食べるだけで幸せになれるレストランもまた少ないからです。
11月いっぱいで閉店するという話を聞いて急いで行ってみました。
美味しいレストランとはいえそこそこの料金(内容からすればものすごーく安いのですけど、相対的には結構な料金)なので貧乏な僕がそうしょっちゅう行くというわけにはいかないので、数ヵ月ぶりの訪問でした。
イル・マンジーャレの記念に食べたものを書いておこうと思います。
その都度細かい説明を受けたのですが、あまりに沢山ありすぎて覚えきれませんでした。
どれだけ細部まで凝っているのかが、そういう細かい材料を書くことが出来ればもっと良くわかるはずなのですが、ここに描くことが出来ないのでごくおおっざぱな説明です。
それでも少しはその美味しさが伝わると良いのですが!
まずはお通しとでも言うべきアミューズなのですが、これが実に食べでのあるものでした。
ちゃわん蒸しの上にずわい蟹の身と小柱のほぐしたものを混ぜて乗せてあるといった風のものですがその蟹の美味しい事、ふんわりと甘い卵の味や小柱などの味付けもすべて蟹の風味を生かすためように感じられます。しかもその蟹の量のなんともたっぷりしていること。
これだけでも「蟹食った!」という満足感に浸れるほどで、立派な前菜といってもおかしくないものです。
次はまるで花の咲く庭のように美しいお皿です。ミニチュアのように小さな野菜を使ったサラダです。
どこかの地方で特別に小さく作っている野菜だそうですが、どこで作っているなんてあまりの美しさに気を取られてすっかり忘れてます。
野菜の上に薄く切った魚のカルパッチョ(たぶんハタ?)が乗せられています。マスカルポーネとパッションフルーツを使った2種類のソースが白と黄色の彩りを添えています。
初夏の花園のような見かけと同じように爽やかな味わいです。
次の前菜を見たときは、その立派さにこれってメインじゃないの!と思わず思ったほど。
こちらは落ち着いた秋の庭をみているようなシックな色合いですが、まるで箱庭のように奇麗です。
こげ茶色の長方形の陶器の真ん中に、ミルクチョコレートのような色のマッシュルームのピュレーが敷かれ、(それがまた肉と良く合うのです)その両側に厚く正方形に切られた牛タンをたっぷりのソースで柔らかく煮込んだもの、そしてその上にはリンゴのピクルスが添えられています。
花のように見えるのは小ぶりのシイタケですが、このシイタケが、これがシイタケかとと思うほど味わい深いのです。
すべてのものがたっぷりと陽の光を浴びている秋の林にいるように調和して暖かい満足感を味あわせてくれます。
これで3品ですが、このあたりで腹も十分満足しはじめてきています。
これ以降はもったいないから翌日に持ち越したいところですけど、そうはいきません!
次はUシェフお得意とでも言える定番料理、冷製カルボナーラです。これだけは初めて食べるものではありません。しばらく食べられないからとわざわざ定番を出してくれたのです。
何が特別かといえば、なんといってもタップリのトリュフォが乗せられていることです。
上質なオリーブオイルと生クリームと塩によるンプルな味にトリフォの香りがずんずん迫ってくるのです。
実は僕はこの冷製カルボナーラはそれほど好みの料理ではないのですが、久々に食べるこれはやはり独特の美味しさがあります。それにトリフォは大好物ですしね!
冷たいパスタの次は暖かいパスタです。フルーツトマトを細かく刻んだタコと混ぜたシンプルなソースです。
トマトの味と新鮮なタコの味がシコシコと歯ごたえのある卵麺に実に良く馴染み、「やっぱりこういうのもありだよな!」と何となくほっとするような一品です!拍手。
ライムとミントのソルベで口を流した後がメインの魚と肉です。
普段はこんなに食べられないのですが、今回はこのお店も最後ということでフルコースをお願いしたのです。
ほんとはお腹がいっぱいなのに目と舌がまだまだと頑張っています。
メインのお魚は金目鯛です。金目鯛の切り身を低温でじっくりと蒸し焼きにして味を封じ込めたものに、クリームのようになめらかに泡立てた2種類のソースがたっぷりとかかっています。
一つはムール貝のスープを卵黄で泡立てたもの、もうひとつはオマール海老のソースです。
そのどちらのソースも材料の味がたっぷり残っているので、3種類の海の味を楽しむことが出来ると言う贅沢なお皿です。
そして最後が牛フィレをこちらも低温で旨みを封じ込めながらじっくりと火を通したもので、中はミデイアムレアーのように赤いのですが、実際にはしっかりと火が通っているのです。
この肉の美味しかった事!美味しすぎてとてもその美味しさを表現することはできません!
いわゆる霜降りの和牛のような甘くてとろけるような美味しさではなく、もっと肉本来の旨みが味わえるようなしっかりした美味しさなのです。
普通フィレというとなんとなく淡泊すぎて、場合によってはぱさついて味が無い場合だってあるのですが、これはまさに濃厚というべき肉の味がします。
個人的には脂のいっぱい乗った霜降り肉より、しっかりした赤身肉のほうが肉本来の味がしてすきなのですが、この肉の味には驚きました。
そうそうあまりの肉のおいしさに忘れていましたが、肉の下に敷いてある栗のムースもばっちりの相性でした。
最後のお皿にふさわしい一品でした。
最近のデザートは割と普通だったのですが、今回のはちょっと凝っていて美味しかったです。
一つの器にリコッタチーズのラビオリ、柿のシロップ漬け、香りの高いラベンダーのアイスクリームという盛りあわせですが、この3種類のミックスが実にさっぱりとして、もうこれ以上何も入りませんというお腹にするっと入ってしまったのです。
これが僕がイル・マンジャーレで最後に食べた料理でした。
これを読んで、もしUシェフの料理が食べてみたいと思った方がいたら、僕と一緒にUシェフが新しい世界でまた活躍する日を首を長くして待ちましょう。
これから何十年経とうともUシェフは料理に対するひたむきなエネルギーで新しい料理に挑戦し続けることでしょう。
でも、もし出来ることなら、あんまり頑張らずに時には手軽な料理でも作ったりして、ゆっくり息抜きをしてもらいたいと思うのです。
またお会いできる日を心から楽しみにしています。
Arrivederci(また逢う日まで!)イル・マンジャーレ!