何度聞いても。 リヒャルト・シュトラウスの【最後の4つの歌】は素晴らしい。 |

やっぱりよいものはよい!
久々にリヒャルトシュトラウスの【最後の四の歌】を聞きなおしてつくずつ思いました。
この歌は好きなので何枚もアルバムを持っているのですが、今回聞いたのは初めて聞く盤でカラヤンがベルリンフィルを指揮してカラヤンの秘蔵っ子だった?グンドゥラ・ヤノヴィッツが歌っているものです。
これが昔の輸入盤CDだったためかどうか、ともかくめっぽう音がよいのです。
残響が多少大目に感じますがオーケストラの広がりや歌の実在感など実に生き生きとしています。何よりすごいのはカラヤンのオーケストラの統率力です。
これほど感動的にかつダイナミックに伴奏のオーケストラが聞こえるのはこの演奏が一番のようです。
おおきななうねりのようなオーケストラの音にひたすら身をまかせているとうっとりしてしまいます。
これだけ伴奏にも聞きほれてしまう演奏はそうはないでしょう。

リヒャルトシュトラウスの一番有名なオペラはたぶん【バラの騎士】だと思います。これも美しい歌がたくさんありますが、全体的に少しばかりエキセントリックで
一筋縄ではいかないような旋律があったりするのですが、そういう饒舌な部分は亡くなる一年前、八四歳の時に作られたこの歌曲ではすっかり影を潜めているように感じます。
何よりも僕にとってはある一つの風景をこれほどリアルに思い浮かべてしまう曲は他には存在しないのです。
その風景というのが遠くになだらかな山が浮かびどこまでもブドウ畑が広がるNAPA VALLYの夕暮れです。
聞くたびにありありとその風景が浮かんできてしまうのは、たぶん流麗なオーケストラの音が透明で乾いた空気のなかをきらめく光の粒そのものように聞こえるからです。

いつまでも、ほんとうに終わることのないような光溢れるNAPA VALLYの夕暮れの風景は、とくに3曲目と4曲目の詩とぴったりと重なります。
三曲目「眠りにつくとき」は仕事を終え眠りに就く前のひと時、4曲目の「夕映えの中で」はまさしく暮れかかっている空をひろびろとした丘から見下ろす風景が歌われています。
特に夕映えの中での最後に残照をなごり惜しむかのように夕焼けの空で歌うヒバリの声が、(フルートです)最後の光を残して沈んで行く太陽と透き通るような空気を思いださせてくれるのです。

一曲目の「春」2曲目の「9月」も三,四曲目と同じように心情だけを歌った詩ではなく、自然の中に身を置いて季節が移り変わって行く様子が見事にとらえられています。
とくに僕の好きな「9月」では花園に雨が降り注ぎ、アカシアのこずえから舞う葉と金色の雨のしずくが静かな夏の終わりと秋の始まりの風景を自然と浮かびあがらせてくれるのです。
この曲を聞いて思い出すのがアントニオ・カルロス・ジョビンの「薔薇園に降る雨」です。
こちらも聞くたびにその風景が浮かんでくるのですが、こちらは季節が9月ではなく初夏のように感じます。ともに素晴らしい名曲だと思います。

もっとも【最後の四つの歌】の最初の三曲はあの有名なドイツの作家ヘルマン・ヘッセのものです。四曲目だけはヘッセではなく別の人のものです。
夏の終わりと夕暮れはいかにも人生の晩年を思わせるものですが、なぜ四曲目にヘッセの詩ではなくこの夕映えの中にを選んだのかはこの順番で曲を聞いて行くとなんとなくわかるような気がしてきます。
自分のお葬式にこの曲を流して欲しいという人がいるのも理解できると言うものです。
自分のお葬式に流す曲となるとそれは色々あるようでして、僕の知人のお葬式にはサッチモとエラのデユエットが流れていました。
一方で派手なロッシーニのレクエイムを流して欲しいという人もいますし、ケニーバロンとスタン・ゲッツのPEOPLE TIMEだってなかなか相応しいと思います。

さてこの【最後の四つの歌】ですが、気がつくと僕がオーデイオで音を確かめる時のリファレンス盤にもなっているではないですか!
とくに三曲目に美しい旋律のバイオリンの独奏が入るのですが、この独奏バイオリンの音がどう聞こえるか、これが僕にとっての最大の関心事なのです。
アンプを変えたり、ケーブルや部品を交換したり、色々やってみた時に確かめずにはいられないのがこのバイオリンの音色でした。
これが不自然にデジタル臭く聞こえたり、聞いていて気持ち良く聞こえなかったりすると、いくら音場が広がったり空間が出現しようとも、どうにも駄目なようです。
こうなるとものすごく主観的な音色の好みという、好きな色は?とおんなじような範疇になるので、ここらへんがオーデイオの良しあしの難しさなのだと思います。

というわけで時々思い出したようにこの曲を聞き続けているのですけど、ソプラノ歌手に人気のある曲らしく、録音も沢山あるのでまだまだ聞いたことのない演奏もたくさんあります。
とはいえ今のところ持っているどのCDで聞いても、どれも良い曲と感じるのはやはり曲自体が素晴らしいからでしょう。
と書いていて思い出したのが、先日この曲を生演奏で聞いてみたいと思い初めて日本でも一番有名?なオーケストラで聞いたこの曲のことです。実はこれがさっぱり印象に残っていないのです。
やっぱりCDやレコードで聞くような昔の歌手や演奏のほうが圧倒的に優れていたのかなと思ってしまうのです。
