ひさびさにすごい映画を見てしまった!映画【イブ・サンローラン】 |
別にサンローランに特に関心があるわけではない。
あの縦にYSLの文字が並んだロゴは良く知っているが、どんな服のデザインをしていたかなど、高級服ファッションにとんと興味のない僕が知るはずもありません。
それなのに映画【イブ・サンローラン】を見た理由はといえば、たまたま時間がぴったりだったのとほかに面白そうな映画をやっていなかったためです。
ところが見終わっておどろきました!!
まるでオペラとかバレエとかを見た時のように、生身の人間と音楽と美術が渾然と交じり合って作られたエネルギーのようなものがずっしりと感じられたのです。
これはなんだかすごいものを見てしまった・・というのが見終わった直後の正直な感想です。
いったいなにがすごかったのか?
たぶんこの映画の中には様々なすごいものがぎっしりと詰まっていて、それがまとまってドーンと押し寄せてきたのではないかと思います。
なにがすごかったのか?そのすごかったものを一つずつ考えてみたいと思います。
まずストーリーをたどるだけだと、ただの恋愛映画にほかなりません。しかも通常の男と女の恋愛ではなく男と男の恋愛です。
これほど男同士のラブシーンが沢山出てくる映画は初めてなのではないでしょうか?気色が悪いと言えば確かに悪いです。しかもものすごくドロドロしています。
同じ恋愛といっても美しいだけの純愛ものとはまったくの別物。
これだけドロドロした愛憎劇を美しいと感じるまでに昇華しているのがイブ・サンローランの作り出す作品の素晴らしさです。それによってこの映画もまた影と光が作る壮大な叙事詩となっているのです。
この映画の中に登場するファッションショーは特別な才能を抱えた人間の悩みと苦しみの半面のようなものです。それなくては生みだされることのなかった作品。
その狂気とでもいうべきすさまじさが美となって昇華するその瞬間、それがこの映画の中で描かれたファッションショーです。それは間違いなくほんとうの芸術というべきものでした。
その緊張感がびりびりと伝わってくるほどで、ファッションショーをこれほど見事な緊張感と感動で描いた監督の手腕もまた素晴らしいものです。
この映画が優れている最大の理由はイブ・サンローランの作った芸術作品の美しさとそれが生まれるための苦悩に溢れた過程を実にうまくバランスを取って描いているところにあります。それがなければ救いようもないくらい暗い作品になっていたことでしょう。
まず驚くことの一つに、俳優の演技のうまさがあります。
もちろん脚本の上手さがあってこそでしょうが、この映画に出てくる俳優は演じている実在の人物そのものにしか見えません。
それはまるで舞台劇で生身の人間が演じているほどの迫力で迫ってくるのです。
というわけでファッションを描いたお気楽な映画だと思ってみると、まずはお気楽とはまるで無縁の緻密で迫力ある演技に圧倒されること間違いありません。
もう一つ重要な要素に音楽があります。というより今書いている映画の印象にも音楽の力が大きく作用しているように思えます。
この前のブログでオペラと映画音楽のことを書きましたが、早くも訂正しなくてはならないようです。
それはこの映画ではさらに感動的にオペラのアリアが使われているからです。
クライマックスたるファッションショーの場面、ここで使われている音楽がマリア・カラスの歌う【トスカ】の名曲【歌に生き恋に生き】です。反則なのは?マリアカラスのすごさです!
たとえ何も映していない暗闇の中に同じカラスの歌を流したとしても感動してしまうことは間違いなし!それほどカラスの歌は胸に迫ります。
華麗なファッションショーを舞台にこの歌が流れます、この歌は自分の命と引き換えに恋人を救うという場面で歌われるアリアなのですが、この映画でこれを聞くとイブ・サンローランがまさに自分の命をすり減らして作品を作っていったことと重なって見えてくるのです。まさに見事な選曲といえましょう!
それにしてもカラスの歌はすごいとあらためて思いました。白状すると僕はカラスの歌をあまりまじめに聴いたことがなかったのです。ゴッホの絵を見ているとその余りの感情の激しさに見るのがつらくなってくるように、彼女の歌を聞いているとちょっとつらくなるので少々敬遠していたのです。
そんな僕でさえカラスの歌が流れるとこれはカラスだなと解りました。それほど彼女の声は特徴があるのです。
そんなカラスの歌の偉大さがこの映画のクライマックスシーンと重なることによって初めて僕にも理解できたのですからたいした映画ですよね!
ほんもののカラスを聞いたらいったいどれだけすごかったことか!ミラノスカラ座がカラスが亡くなった後、カラス以外には上演できないとトラビアータの公演をつい最近まで封印していたのもなるほどとうなずけます。
カラスの歌ばかりに話しが集中してしまいましたが、この映画全体の音楽もとても秀逸です。
話の中の年代に合わせて音楽もそれっぽく変化していくのですが、特に最初のころのハードバップ風のJAZZはよい曲です。昔のJAZZ曲の引用かと思ったらさにあらず、この映画の音楽を担当しているのがJAZZトランペターのイブラハム・マールーフいう人なのです。早速このひとのアルバムを購入しようと思ったほどセンステイブで素敵な演奏でした。
このように演技、音楽とどれをとっても溢れる才能と情熱が湧き出ているのですが、この映画を優れたものにしているのはそればかりではありません。
緻密で計算された画面展開、ぐいぐい引き込まれていくような演出、細部まで詰められた画面。
そこには最近のコンピューターグラフィックを多用した映画ではけして味わうことの出来ない、本物だけが醸し出す雰囲気があるのです。
それはこの映画に出てくる沢山の登場人物の衣装、部屋、車、小道具、すべてにわたってきわめて注意深く作られているからにほかなりません。
昔の巨匠と言われる監督たちが映画を作る時はどんな細部にわたっても凝りに凝っていました。構図が悪いからと人が住んでいる2階家の2階部分を壊してしまった黒沢 明、部屋の隅に置いてある茶碗ひとつまで高価な品物を自分で選んだ小津 安二郎、そんな昔の監督だけが持っていた個人の才能や美意識のようなものがこの映画からも間違いなく感じられます。このピエール・トレトンと言う監督の美意識もまたすごいのです。
というわけで色々書いてしまいましたが、その色々がほんとにすごい映画でした。たまにこういうすごい映画と出会うと嬉しくなります。
(今回も僕のまわりの秋の終わりの風景の写真でまとめてみました。いよいよ冬ですね!)
紅葉の良い色がでてますね。
この間鎌倉に行きましたが、既に紅葉は終わりのようでした。あっという間ですね。
建長寺は、なんとか見頃でした。
あと、海のお写真を拝見したら、
鎌倉高校前あたりに行きたくなりました。
あっちのほうには、最近行ってないです。
おっしゃる通り海の写真は七里が浜です。この日は平日だったにもかかわらず、海岸沿いのどの店のテラスも満員でびっくりしました。最近は湘南も随分人気のようですね。