イタリアの田舎町にあるような家庭的なレストラン。ありがたいお店です。【クオ・ヴァデイス】 |

上はジムに通う途中の自転車道路の風景です。夏らしくなりました。
なんだかあまり人には教えたくないような馴染みのお店というのがあります。以前に書いた中華街の【新楽】などもその一つですが、その理由というのが一つは人に教えるのがもったいないというしみったれた思いなのですけど、もう一つは他人にその価値がわかるかどうか不安だということがあります。
何度も書いているように音の良しあしとか、味の良しあしというのは人によっておどろくほど様々だからです。
とはいえそこには本来ある程度の基準というものが存在しているはずで、標準以上であればだれでも良しとするはずなんですけど実はそれさえも怪しいのですから問題です。
先日久々にいつも人が並んでいるパンケーキ屋さんに行ってみました。ここはハワイのパンケーキが日本に上陸してブームになる少し前くらいから営業していたパンケーキ専門店です。
ずいぶんと人気が出たため改築して座席数を増やしたようすでしたが、今回は改築後初めての訪問です。
僕が食べたいのはアメリカならファミレスに相当するI-HOPで出されるようなごくごく普通の朝食です。好みに調理した卵にカリカリのベーコン、たっぷりのコーヒーそして軽やかで適度に薄いパンケーキというものですが、実はこれが日本では難しい。
(そのお店のオムレツとパンケーキ)

今回も卵とベーコンとソーセージにパンケーキというメューを選んでみましたが、卵は焼き方が選べるどころかスクランブル一種類だけ、ソーセージは美味しかったですが、ベーコンは柔らかい日本風のもの、パンケ-キもちょっともちもちし過ぎていて重すぎ、コーヒーはおかわりできず一杯だけ、とそこそこの値段のわりにはあまり満足のできるものではありませんでした。
周りはとみると半数以上の人が生クリームなどのかかった甘いパンケーキを食べていました。やっぱり日本ではパンケーキは食事ではなくスイーツの仲間と思われていることが解ったのでした。
最大の疑問はどうしてこのお店にこんなに人が並ぶのだろうということでした。たしかにまずくはありません、それなりの美味しさではあります。それにしてもです・・・やっぱり僕の感覚は人とはずいぶんとずれているようです。
【下はクオヴァデイス店内です】

さて【クオ・ヴアデイス】です。この店は5,6年前に開店して間もないころから今まで【新楽】に負けず劣らず通い続けているお店です。石川町の駅の程近く麦田町に抜けるトンネルの少し手前というちょっと外れた場所にあります。
なによりもこのお店が素晴らしいのはとても良心的だということ、それは料理からサービス、料金まですべてに行きわたっています。
コストパフォーマンスの高さは抜群で、先ほどのパンケーキの料金を出せば前菜からパスタ、デザートにコーヒーまで楽しめるほどです。それゆえお客さんもほとんどが地元の人か常連が多いように見えます。それもこの店の特徴の一つかもしれません。
確かに内装といい雰囲気といい、すごくお洒落で豪華というわけではありませんが、それゆえに気さくで気楽に食べられる町のレストランならではの良さがあります。
そして嬉しいのは手軽な雰囲気と料金にもかかわらず料理が本格的なことです。
とはいえここの料理はお洒落なイタリア料理ではなく、イタリア人の知人のお宅を訪ねて食事したら出てくるようなイタリアの家庭料理なのです。
ここのシェフはイタリアで料理を勉強したという本格派ですが妙に凝ったイタリア料理ではなくシンプルな料理です。とは言えそれはそこいらへんの中途半端なイタリアレストランとは一線を画すものです。

さてまずこのお店のおすすめはピザです。ピザというのはシンプルな故になかなか気に入ったものに出会うことが難しいのですが、ここのマルガリータはお気に入りで、しばらく食べないと禁断症状を起こして来るたびについマルガリータばかりを頼んでしまうほど。
とはいえ知人のピザ好きを一度連れてきたことがあるのですが、彼は銀座コリドー街にあるお店のぱりぱりのピザのほうが好きなようすでした。まったく人さまざまです。
僕がここのピザを好きな理由は、まずその皮にあります。厚くもなく薄くも無くぱりぱりでもなく適度に固く適度にもちもちとしたその加減の良さです。実はこの皮の塩梅が良いピザは実に少ないのです。
僕の知る限りではここのマルガリータのレベルは麻布十番にある有名な目黒のピザ屋さんの支店にまったくひけを取らないものです。そればかりかその麻布十番の店よりむしろクオバデイスの方が好みだという知人さえいるほどなので、クオヴァデイスのピザのレベルが高いというのは僕だけの偏見ではないはずです?
(下はレンズ豆のクレーマー、真ん中のオリーブオイルと一緒にパンにつけて食べるとうまし。)

そんなわけなのでついピザばかり頼んでしまうのですが、ほかにもはずすことの出来ない気の置けないメニューが沢山あります。
たとえば冷たいレンズ豆のポタージュスープ。けして洗練された上品なスープではないのですが豆の味がクリームにしっかり溶け込んで実に美味しく頂けます。
前菜にはレンズ豆で作ったクレーマー?というマッシュポテト状のものや、カボチャで作った甘いアーグロドルチェ、じゃがいもにチーズを入れたお好み焼き風のカリエッタなど、どれを選べば良いか迷うほど。しかもこういった本格的なイタリア家庭料理の前菜がどれも数百円という安さなのですからびっくり。
(ラザニアです)

自家製ソーセージもなかなか良い出来です。最近のお気に入りは外側にパリパリの焦げ目がついて中がほっこりと柔らかいラザニアです。これが二人で食べて十分なほどの量で1800円なのですから嬉しいです。
ともかく値段の割に量もたっぷりなのでスープにサラダ、最後にデザートの盛り合わせ【300円!】を食べてコーヒまで飲んでもお昼なら1000円台におさまるし夜でも2000円台で満足できるという、ともかくも驚くほど良心的な料金にはなんだか申し訳なく感じてしまうほどです。
(下はチョコレートの粉がかかったテイラミス)

なによりもありがたいのが知っている街にこういう気取ったところのないフランクな雰囲気で味も良く良心的でサービスも良いレストランがあることです。
店構えだけはやけに奇麗で味はたいしたことの無い上に料金だけはそこそこのレストランが多い中、こういうレストランがあることが文化というものでしょう。たぶんどこの町にもこんなお店が一軒くらいはあるものと思われますが、問題はどうやってその店を発見するかです。まさにこういうお店に出会えるのはラッキーというものです。
(下は同じく店内)

さて最後にこの店に初めて行った時からの疑問。それはクオ・ヴァデイスという店名です。
すぐに高校時代に読んだ小説を思い出しました。
それはローマ時代のこと、迫害に耐えきれなくなった聖ペテロがローマを逃げだそうとアッピア街道にさしかかった時、昇天してしまったはずのキリストに出会うのです。
そこでペテロが言った言葉が【ドミネ クオ バデイス?】【主よどこへ行くのですか?】でした。
【お前が逃げるから私がもう一度ローマにもどって十字架にかかりに行くのだ!】という言葉にペテロはすっかり驚いて逃げるのを止めるのです。
こんな宗教的な言葉が店名なんて不思議だなと思って、なぜこの名前をつけたか聞いて見ようと思いながらも、いつも食事に満足してすっかり忘れてしまうのでいまだに聞いていません。
とは言え、たとえどんな困難があろうともどこにも行って欲しくない店であることは確かです。
