【EVERYTHING HAPPENS TO ME】・・このごろ聞き直していますがいい曲です! |
昔から夢中になって聞いていたというよりも、何かのおりにさりげなく聞いて、それがずっと記憶に残っている曲というのがある。たとえばこの【EVERYTHING HAPPENS TO ME】などもそんな曲の一つです。
【僕にはなんだって起こるさ!】という曲名ですが、この何だって起きるというのが、ツキがあるので良いことばっかり!というのとは正反対なのが泣かせます。
この何だって起きるというのは【どうして僕ばっかりに!】と言う嘆きの但し書きがついた方がより正確でしょう。
こんな思いは実は誰だって経験したことがあるはずです。弱り目に祟り目というやつです。
この歌詞はだいたいこんな内容です。
まったく僕に起こることといったらろくでもない事ばかり、ゴルフをやれば雨が降る、パーテイ開けばうるさいと苦情がくる、トランプでエースを出せばさらに良い手で逆転される、風邪が流行れば必ずひくし、電車も乗り遅れてばっかり。何をやっても不運だらけ。そんな僕を君が救ってくれると信じていたのに、電話をかけても電報をうっても返事は【さよなら】だけ、しかも料金不足ときている。
というような、まさに嘆き節と言った感じなのですが、その悲惨な内容の歌詞にもかかわらず演歌のような重く暗い曲調でないのがこの曲の良いところ。
たとえばアメリカのカントリーミュージックなどを聞いてもその歌詞はとっても悲しいのに、曲だけ聞くととっても明るく聞こえるというのにどこか似ているかもしれません。
まあJAZZなのでカントリーほどシンプルに底抜けに明るいわけではないのですが、このメロデイと歌詞にはどこか達観したような、まあしょうがないな・・みたいなとぼけた哀愁?が漂っているように感じられます。どちらかと言うとさらーっとした歌い方のほうがあっているようです。
もともとはフランクシナトラの歌でヒットしたそうですが、この曲をはじめて聞いたのはチェットベイカーでした。
ご存じの方はもちろん知っているというJAZZ界ではチョー有名な男性シンガーとトランペット吹きです。人生に達観したかのような、中性的でどこかなげやりな彼の声が実にこの曲にぴったりの気がします。
JAZZに入門するとき一番すんなり耳に入ってくるのがピアノのビルエバンスと歌ではこのチェットベイカーかも知れません。彼の歌はスイングするというのではなくどちらかと言うとボサノバにあるようなささやくようなとっても優しい歌い方なのです。
晩年になってすっかり中年太りし、その上薬でボロボロになって見る影もなくやつれても、その魅力的な歌声は変わりませんでした。そして特筆すべきはトランペットで、歌の良さはもちろんですがトランペットの演奏のほうがさらに素晴らしいと個人的には思っています。
この曲は歌ばかりでなく実にさまざまな器楽演奏者も取り上げています。件のビル・エバンスをはじめセロニアス・モンク、キースジャレットなどのピアニストの大御所も演奏しています。
僕が最近この歌を良く聞くのはマリエルコーエンという女性歌手のものです。彼女も声を張り上げたり妙なこぶしをつけたりすることなく、どちらかというとボサノバ歌手のようにさらーっとうたいます。
僕はそのさりげなさが好きなのですが、もちろんその正反対の意見もあることでしょう。
そのためかどうかこのアルバムにもジョビンの曲が入っているだけでなく、その後ボサノバだけのアルバムも出しています。
彼女がこの歌を歌っているのは京都の下駄屋さん沢野工房レーベルが発売した彼女の最初のアルバムです。このアルバムは選曲が実に素晴らしく、僕のお気に入りの曲が3曲も入っています。
EVERYTHING HAPPENS TO ME、そしてエラの歌でも馴染み深いしみじみとしたムーンライト イン バーモント、そして僕の一番好きな映画【ロシュフォールの恋人たち】の曲にまったく別の詩をつけたミッシェル・ルグランの名曲【YOU MUST BELIEVE IN SPRING】です。
この歌はクラシックのフォン・オッターがブラッドメルドーと共演した珍しいアルバムにも入っていますし、ビルエバンスの演奏をはじめ枚挙にいとまがないほど沢山の人が演奏しています。
そしてこの曲は映画とは別に新たに映画の歌詞が付けられてつけられているのですが、その歌詞もまたなかなか良いのです。
実のところ歌手としての彼女よりも、旦那さんであるピアニストの【ヤン・ビースト】のほうがピアノトリオとして有名かもしれません。
その旦那さんが伴奏するピアノがこのアルバムではリリカルでかつ歯切れの良い演奏で実に聞かせてくれます。
思い入れたっぷりのピアノで伴奏だけ聞いていても泣かされるという、ピアノトリオの聴きどころに歌が入っているという一粒で2度美味しいアルバムなのです。
そういえば彼女が新しいアルバムを出したと言うのでちょっとだけ聞かせてもらいました。
このアルバムにもボサノバ曲が入っており、しかもそれがジョビンとモライスの名曲、ボサノバを世に広めるきっかけとなった【思い溢れて】なのですからうれしいことです。実にわかっているな!という的を得た選曲の上手さは相変わらずのようです。
さてこの新しいアルバムを聞いていると最初のアルバムとどこか違う気がします。
コーマンの歌は相変わらずスムーズで気張らず、写真で拝見するそのお姿とは裏腹に実に華麗でかわいらしく聞こえます(失礼!)ところがヤン・ビーストのピアノはずっと抑え気味に聞こえます。
このアルバムのタイトル【ナチュラル】そのままの気張らない自然な演奏なのです。
どっちが好きかと言われれば、僕は最初のアルバムの生きの良いぱりぱりした演奏のほうが好きですが、これはこれでじっくり聞いてみればその良さが染みわたってくるという演奏なのかもしれません。彼女は来日したこともあるそうですからまた日本に来たら一度聞いてみたいものです。
さて良いことばかりは起こらないのがこの世の常、さりとて悪いことばかりというわけでもなさそうです。
この歌のように悪いことばっかり続いたとしても良く考えると大けがしたわけでも経済的窮地に陥ったわけでないのですからたいしたことではなさそうです。
なにごとも考え方次第というもの。
まあこの歌の本当の意味は恋するものの苦しみを俗世間のささいな不運にたとえて嘆いてみせているという、実はとてもお洒落な歌なのですからそんな事を言うのは野暮というものです。
エンジエルアイズでも有名なマットデニスが作曲した軽快なメロデイがこの歌詞にぴったりで、失恋の悲しみが怨念のように沈み込むのではなく、情けないけどまあいいかという調子なのが実に気にいって最近ちょくちょく聞いているのです。