ハンブルグバレエ団【リリオム・回転木馬】を見てきた。これは凄い!! |
巡り合わせと言う物は面白いもので、色々な出来事はなぜかまとめて起こったりするものです。ここのところ伝記を読んで以来ミッシェル・ルグランづいています。
昨年NHKの衛星で放送されたハンブルグバレエ団の公演を見たら、その振り付けが面白くてハンブルグバレエ団の名前が記憶に残っていました。
そしてある日新聞を見るとハンブルグバレエ団の広告が載っていました。ふと音楽を見るとミッシェル・ルグランとなっているではないですか!
ルグランづいていた僕はこれはいかねばなるまい、とすぐチケットを購入しその公演が昨日の土曜日だったというわけです。
そういえばルグランの伝記に現在の仕事の一つがハンブルグバレエ団のジョン・ノイメイヤーに頼まれたバレエ音楽の事が書かれていました。
そしてこの【リリオム・回転木馬】こそがその作品だったのです。
調べてみるとTVでみて記憶に残った特徴的な振り付けもやはりノイメイヤーだったことがわかりました。
伝記を読むまではノイメイヤーの名前など聞いたことなかったのですが、今回調べてみると僕は一度このノイメイヤーの振り付けによる舞台を生で見ていたのです。
それは【月に寄せる7つの俳句】というバレエで静謐でモダンでとても印象に残る素晴らしい作品でした。
バレエは踊りはもちろんオーケストラ、照明、舞台装置、衣裳、などすべてが楽しめるオペラと並ぶ総合芸術です。ところが日本のクラシックファンの間ではバレエを見に行くという人は少ないようで、それは公演を見に行くと良くわかります。
オペラは圧倒的に老人かそれに近い男性が多く、オーケストラもそんな感じでしょうか、ピアノになると多少女性の割合が増えるようです。
ところがバレエになると圧倒的に女性が多いのです。子供や学生風の若者も目立つのは実際に自分が習っているからでしょうか。昨今フィギアスケートの人気がひときわ高いようでTVでも頻繁に放映されていますが、同じように体を使い奇跡的な動きまでみせるバレエにその人気が向かないのが不思議なことです。
とはいえ僕がバレエに詳しいかというと、そうでもありません。
それでも思い出してみると【くるみ割り人形】は様々なバーションで5,6回見ているし、古典的でロマンテイックな【ジゼル】【ル・シルフィード】【ドナウの娘】、【シルビア】定番の【白鳥の湖】【眠れる森の美女】【コッペリア】はもちろん、、音楽が面白すぎて2度も見てしまった【ロミオとジュリエット】、【火の鳥】【ドンキホーテー】【真夏の夜の夢】、ギルギエフが振ったマリンスキーバレエ【イワンと仔馬】、パリ・オペラ座バレエ団の卒業公演、夏の野外で行われた東京バレエ団のボレロ、創作バレエでメンデスゾーンのスコットランドなどなど・・・。
こうやって書き出して見ると結構みているではないですか!
そんな事もありハンブルグバレエ団の広告が目にとまったのも偶然とはいえないかも知れません。
さてこの【リリオム・回転木馬】は僕の尊敬する作曲家リチャード・ロジャースとハーマンスタインのミュージカル・ゴールデンコンビによる【回転木馬】の原作になった戯曲を新たにバレエ化したものです。
音楽はハンブルグバレエ団の芸術監督であるノイマイヤーがルグランに作曲を依頼したもので、演奏はハンブルクに拠点を置く北ドイツ放送協会(NDR)のビッグバンドです。ルグランの作曲、編曲によるビッグバンドの演奏が聞けると言うだけでもわくわくするではないですか。
さて行って見ると今回の公演はいつも以上に女性が多い。90%は女性といってもいいくらいで、日本のバレエで良く見られる学生や子供の観客が少ないのが珍しいです。
久々に来た東京文化会館はその間に内部をリノベーションしピカピカになっていました。それにしてもここはやっぱり気持ちが良い、前川国男の生みだす暖かい雰囲気と居心地の良さとがひときわ感じられます。
(今回の写真は全部その文化会館の中です。いい雰囲気ですね!)
海の中のような青いホリゾンドの中に裸電球が一つぶら下がっています。
その電球の黄色い光が、昔見た夕暮れの記憶のようにひっそりと舞台に漂っています。
まったくの無音の中、色とりどりの浮かぶ風船を手にした男が妙にバランスを崩した独特の歩みで舞台に登場します。まずは生の舞台ならではの美しさにうっとりとする瞬間です。
ストリングスを中心にした音楽が流れ出した瞬間、おやっと思いました。どう聞いても録音された音のように聞こえるからです。ビッグバンドは何処に行った?その姿はオーケストラボックスにも見当たりません。
舞台が進み始まって5分はたったかなという頃、遊園地の華やかな場面でいきなりビッグバンドの迫力ある音がさく裂します。実は舞台の後方の高い場所に陣取っていたのです。音をだした瞬間にその姿がシュルエットで浮かび上がります。
それにしても生の楽器の音色と迫力が、どれほど録音されたものと違うかこれほど良くわかる機会もありませんでした。その後もストリングスを中心とした録音された音楽と生の演奏が入り乱れながら舞台は進んで行くのですが、そのあまりの音色の差にははじめちょっとばかり違和感を感じてしまいました。
ノイマイヤーの振り付けは独特です。独特といえばルグランの音楽も負けてはいません。
シエルブールの雨傘の映画で使われているようなロマンチックな演奏は映画だからであり、彼本人のアルバムでの演奏や編曲を聞くと実に個性的です。
はじめはロマンテイックな音楽を期待してルグランのアルバムを聞き始めたのですが、いつもその期待は裏切られることになります。
彼のアルバムはどれも一風目新しく風変わりに聞こえ、どことなく落ち着かないのです。10枚近くも彼のアルバムを聞いてそれが彼の個性だというのがわかったのは最近の事です。
ところがこんかい伝記を読んでその理由が良くわかりました。彼は子供のころからクラシックの音楽理論を徹底的に叩きこまれていたのです。ムソルグスキーの火の鳥のスコアも徹底的に分析しているほどです。
そこに本来のチャレンジ精神が加わり、豊富な音楽理論をもとに常に新しい試みや挑戦を行っていたのです。そんな彼の作る音楽が単純で一筋縄でいくわけがありません。
この二人の強烈な個性がぶつかる舞台は当初は面食らうほど混沌としています。
ストリングスが美しいクラシック風の旋律を奏でたと思ったら、すぐ大音量のビッグバンドが4ビートのブルース調の曲で受けるのです。ノイマイヤーの振り付けもゆったりとした動きと、まるであばれる昆虫のような不自然で細かい動きが交錯します。
その個性に満ち溢れた二つのエネルギーが舞台上でぶつかるすごさに、あっけに取られている内に一幕目が終了します。
ここで一番印象に残った見せ場は男性が20人以上で踊る群舞でした。これはすごい迫力で見ものでした。
群舞といえばこのバレエ、僕の好きな女性だけによる群舞がほとんどないのです。そればかりか男性のほうが女性より多いのではないかと感じられました。バレエにしては珍しいことに男性上位なのです?
2幕目はそんな色々な思いを軽く吹き飛ばすような圧巻でした。ここではルグランのロマンテイックな曲作りのうまさが存分に発揮されます。
天国から戻ってきたリリオムが息子を改心させ天国に帰って行くのですが、その姿を見えないまま追い続けるジュリーの踊りを音楽がこれでもかというほどの迫力で盛り上げます。
もうこの頃になると舞台に夢中になっていて録音と生演奏の区別なんてどうでも良くなっています。
見終わってみれば随分と見応えのある感動的な美しい舞台でした。
観客がほとんど全員立ちあがって拍手したというのもバレエにしては珍しいことでした。
こんな文章で説明してもその美しさ、迫力、感動は少しも伝わらないことは確かです。これだけ見どころや聞きどころ満載した豪華な出し物はそうそう見られるものではありません。
こればっかりは実物を見てくださいと言うしかありません。
さらにこんな凄いものが安い席なら1万円で見たり聞いたりすることが出来るのですからそれも驚きです。
芸術にコストパフォーマンスを言うのは野暮というものですが数万円かけてオーケストラを聞きに行くのも良いですが、一度くらいはバレエを体験して損はないとおもうのですけど・・・。
メインテーマのシシドラシ♭(みたいな)が、イマイチ入り込めないな~と思って聴いていたのですがラストの盛り上がりは最高で、久々バレエで涙しました。
失業者の踊り、息子との踊り、最後の主人公、風船を持つ男、が心に残っています。また観たい作品の一つになりました。
でも空席多かったのでもう来てくれないかも...
それにしても普通のバレエは音楽と踊りが寄り添っているのにこれは音楽と踊りがバトルしてましたからその意味でもすごかったですね!本当は来週の真夏の世の夢にも行きたいのですが
たまたま用事と重なって行けないのが残念です。