北カリフォルニア・ドリーミング?とても遠かったドライブ。 |

この頃の季節、日中は真夏のように暑いのに朝晩は打って変ったように冷たい風が吹いたりすることがあります。
そんな時ふと思い出してしまうのがよく旅行に行ったカリフォルニアのことです。仕事でスタンフォード大学の寮に一週間ばかり泊まったことがあります。
朝起きるといつも空がどんよりと曇っていてうすら寒いのです。ところがだんだん昼近くになってくると、あの雲はどこに行ってしまったのかと思うくらい見事に晴れ上がり日向では半袖でも大丈夫なくらいになります。
湿度が少ないのでカラッとしておりそれはそれは気持ちの良い気候でした。最近は日本でもそんなカラッと晴れ上がった日が増えたような気もします。
一口にカリフォルニアと言ってもそれは想像している以上に広い場所です。
なんといっても面積は日本とほぼ同じ、長さも日本の本州と同じくらいというのですから思っているよるずっと広いのです。
日本でカリフォルニアといえばまず頭に浮かぶのはロスアンゼルスやハリウッドやその周辺の海辺でしょうか?海岸線にパームツリーが立ち並び、辺りには白い豪華な家々が立ち並んでいるような風景です。
米国でもカリフォルニアという州には同様のイメージがあるらしく、以前見たアメリカ映画の中でも主人公が東部に行くとカリフォルニアから来てるからしょうがないと皆からさんざん馬鹿にされる場面がありました。
カリフォルニアには明るくてお気楽なイメージがついてまわるようです。かつてママズ&パパスが歌ったヒットソング【カリフォルニア・ドリーミング】もこういった雰囲気をイメージして歌われているのでしょう?

僕が今カリフォルニアと聞いて思い浮かべるのはサンフランシスコ周辺とそこから北へ上がったベイエリア、そしてソノマ郡のあたりです。
サンフランシスコは寒流が流れ込んでいるので夏でも上着が手放せないほどひやっとしています。かのマークトウエインが言った【僕が知っている一番寒い冬はサンフランシスコの夏だった】というジョークがあるように、夏だと思って油断しているとても寒く感じられるのです。
実はサンフランシスコは夏でも冬でもそう温度の差がないのです。
このように同じカリフォルニアといってもそこに北という字が付くだけでずいぶんと風景が変わってしまいます。北がつくと椰子の木がたちならぶ海辺なんてとんでもない!と言うわけです。
アメリカに旅をし始めたころにはそんな事とはまったく知らずカリフォルニアの海だから暖かいだろうと思い込んで北カリフォルニアを目的地にいれたことがあります。
サンフランシスコから海岸線に沿って北へ走って行くと、そこは雲や霧が立ち込め、夏でも肌を刺すような冷たい風が吹き海にはたえず白波がたっている荒々しい風景になるのです。
それはカリフォルニアというよりまるで日本海の東尋坊を想像させるかのような風景です。
ロスアンゼルスからラスベガスまでの砂漠を横切るどこまでも続く直線道路とは正反対の、丘を登ったり下ったり、時には高い崖から海を見下したりしながら、どこまでもアップダウンンやカーブが続くワインデイングロードを走り続けることになります。
思わず幌を下ろしたモーガンでマニュアルギアを駆使しながら走ればとても気持ちがいいだろうなと想像してしまうような道なのです。

この海沿いの道は大自然のまっただ中といった感じで車も少なく建物もほとんどありませんが、途中海に面してけっこう大きなシーフードレストランがあります。
ここで海を見ながら海老などを食べたことがあります。雰囲気はばっちりで味もそこそこ値段もまあまあだった覚えがあります。
さらにどんどんと北へ進むと景色はさらに寒々しくなり、カリフォルニアを走っているという事をすっかり忘れてしまった頃、暗い空の下に夕日を浴びた海にそそぐ河口に出ます。
その川の名前はロシアン・リバー、やっぱりロシアみたいな雰囲気だからそういう名前なのだと思わせる風景ではありますが、実はこのあたりまだ米国大陸を横断して西海岸におおぜいの人が流れ込む前にはロシアの捕鯨船の中継基地だったそうで、まだロシア正教の教会の後が残っていたりもします。
ジェナーとういう街もどことなく寂しい雰囲気で、ここはヒッチコックの鳥の舞台としてロケに使われた所といえばその雰囲気はわかっていただけると思います。
ここの街の高台からは運が良ければクジラを見ることもできます。ロシアンリヴァーに沿って内陸部に入っていくとこの川に沿って沢山のワイナリーが点在しています。
当時はまだマイナーな存在でしたが、今ではロシアンリヴァー界隈で出来たワインといえば結構高級ワインの部類にはいるようです。というよりここ何十年の間にカリフォルニアのワインの値段は倍どころか3,4倍になってしまったようです。

僕が一番初めにここを訪れたのは、遥かに離れたヨセミテ国立公園のツオルムメドウという美しい場所からの次の目的地としてでした。山並みに囲まれた大草原の川のほとりという場所にあるここのテントロッジに2泊して、その翌日は暖かい海辺の砂浜でのんびり宿泊するという山あり海ありの日程を組んだわけです。
ところがさすがアメリカの広いこと、昼前にヨセミテを出て途中サンフランシスコで買い物などしていたのも悪かったのですが、曲がりくねった山道をどんどんと抜けてもなかなか海岸線に辿りつくことが出来ないのです。
いくら日の入りの遅い西海岸といえども日が水平線に傾きかけた夜の9時近く、疲れ切った僕と車は夕日にきらめく大きな川が海にそそぐ場所までやっとたどり着いたのです。
これがロシアンリヴァーでした。道の横には教会の十字架が夕日の逆光の中に黒く浮かんで、まるで吸血鬼の国に足を踏み入れたかのように心細く感じたものでした。こんなに疲れたドライブはこの前も後も経験したことはありません。

目的の宿泊地はそこからほど近いはずでしたが、辺りには一軒の家もありません。
一台の車とも出会わない暮れかけた海沿いの道をずいぶん長い間走ってやっと見つけたのが海を見下ろす半島にぽんつと建っているそのホテル【テインバーコーヴイン】でした。
それは海辺のホテルというよりは山の中の一軒家のようにさびしく見えました。
そして部屋に入って仰天したのです。部屋の真ん中で明々と暖炉がともっていたからです!
というものヨセミテでのテントロッジの夜はとても冷え込み、二晩もの間テント内に備え付けられてストーブにひたすら薪を足し続けていたからです。
【また薪か!!】とせっかくの暖炉を前に深くため息をついたのでした。

翌朝起きて付近を散歩してみるとそこはヨセミテと同じくらい大自然の中でした。
切り立った崖沿いの細い道を歩くと足元には高山植物のような華麗な花が咲き乱れ、はるか足元の海では白波が絶え間なく押し寄せ、冷たい風に乗って空には鷹が舞っています。もしかすると海岸にはアシカだっていたかもしれません。これではまるで山荘ではないですか!
暖かい海辺を想像してた僕はすっかり面喰って2泊だった予定を切り上げ、もっと馴染のあるナパのホテルを予約したのでした。
ナパに入ると陽の光はまゆいいばかりに輝いていて、やっぱりカリフォルニアはこうでなくちゃ!とやっと一息つくことが出来たのでした。その時にはその後何十回とナパに行くことになるとは想像もしていませんでした。
というわけで一言でカリフォルニアと言ってもそこは想像以上に広い場所だったのです。
(この頃は写真を撮らなかったので写真は例によって近所の風景です。まったくのミスマッチでほんとにすみません。壁紙のようなものだと思っていただければ幸いです。)
