エルルカン・ビスに行って帰りに箱根彫刻の森美術館にたちよったこと。(その2) |
芦ノ湖の南のはずれにある【箱根やすらぎの森】は好きな場所です。恩寵公園や箱根関所までは訪れる人が多いのですが、そのさらに奥にあるこの県立の公園はいつも空いているので、とてものんびりすることができます。園内は散歩道になっていて湖沿いにも歩道があり、混みあう時期でもほとんど人がおらずゆっくりと散歩するには絶好です。
絶好といえばここの駐車場もいつも空いているので車でお昼寝するのにぴったりなのですが、ここでいつも気になるのがエンジンをかけっぱなしで駐車している車です。
営業車などが休憩するためによく駐車しているのですが、どの季節でも窓を閉め切ってエンジンをかけてエアコンをつけたままです。湖のほとりの静かな駐車場ではこのエンジン音やエアコンをかけているとエンジンを冷やすための電動ファンの音が耳触りで結構気になってしまいます。
ここは夏でも涼しい場所なのでクーラーなどかけなくても大丈夫なはずなのですが、まあ暑い夏とか寒い冬の場合はエアコンを使うのもわからないでもありません。
しかし気持ちの良い風が吹いている季節でもまったく同じ状態なのですから驚いてしまうのですが、今の世の中では逆に驚く人のほうが普通でないのかもしれません。
最近ではそもそもエアコンを切って窓を開けるという感覚そのものが存在しないようなのです。意識は常にスマホの画面の中にあり、皮膚感覚もエアコンでとじられた空間の中にだけ存在しているようです。見るもの感じるものすべてが外の世界と遮断されているのがあたりまえという世界なのです。
季節の移り変わりを楽しんだ日本人ならではの物事の感じ方というものがどんどん失われて行っているような気がします。
ここから芦ノ湖沿いに走り峠を下ると強羅はすぐそこです。麓から登山鉄道が登っているのでここは芦ノ湖畔からくらべればずっと人の多い観光地です。
彫刻の森美術館は景気の良かった頃にフジサンケイグループが莫大なお金をかけて作った立派な美術館です。これだけ広いスペースに伸び伸びと彫刻を展示している美術館は世界でも珍しいはず。バブルだって立派に人の役にたっているのです!
ここは気持ちの良い場所なのですが、今回ここを訪れようと思ったのは【横尾忠則展】をやっていたからです。日本の浮世絵の伝統やアニメの世界を美術界に持ち込み米国で高い評価を受けたのが村上隆なら、横尾忠則はそのはるか先を行った先駆者だと思います。
僕のような旧世代には全学連のポスターが一番印象的なのですが、キッチュで毒々しい色彩や浮世絵のような平面的な構図は彼ならではの独特の世界を作っています。
どの世界でもそうですが、その人だけの独自の世界を作り出すしているということはとてもすごいことです。
独自の世界といえばUFOの存在を本当に信じているような彼の日常の世界もそうとに不思議なものなのでしょうけど・・・。今回の展覧会は受胎告知など有名な作品をモチーフにしたパロデイ的な要素もあるものでしたが、その元となる作品を知らないない人が見ても楽しめるような親切な解説があればもっと面白かったのにと思ったのでした。
そういえば数年前に砺波市の美術館に行ったことがあるのですが、常設として森村泰晶がさまざまな人にふんした作品が展示してありました。ところがそこには一切なんの説明もないのです。
たまたま僕が森村さんを知っているからその面白さがわかったものの、レンブラントの自画像など知らない人が見たら森村さんが見事にレンブラントに扮した写真とは解らないはずです。
日本にはずいぶんと沢山の美術館があるほずですが、立派な建物を建てたらそれで終わりというのではなく、もう少し見る人に親切だったら良いのにと思います。
広々とした屋外に置かれた彫刻を見ながら庭園をぶらぶらと歩くのはとても気持ちの良いことです。
歩いて行くと一番奥にある目立つ建物がピカソ館です。現代美術にまったく興味の無い人でもだれでもピカソの名前となんだかわけのわからないように見える絵だけはすぐに頭に浮かぶはずです。なんといっても抽象画の代表選手みたいなものです。
ここには絵画のほかに彫刻、お面など思いのほか沢山の作品が展示してあり大変に見ごたえのある展示となっています。
作品の見事さもすごいものなのですが、その解説を読んでいるとその精力的な女性関係のすごさにも圧倒されます。最後に結婚したときピカソ70歳、お相手のジャクリーヌは26歳だったのですから驚きです。
作品を生み出す原動力の一つは女性だったにちがいありません。
ピカソと関係のあった女性のうち二人が後に自殺していることはピカソの責任ではないかも知れませんがそこになにか暗示的なものを感じてしまうのでした。
この展示でピカソの作品だけでなく興味深かったのがデイヴィッド・ダグラス・ダンカンによる写真です。
彼はライフ誌の専属カメラマンでしたが同じライフ誌のカメラマン三木氏によってニッコールレンズに出会いその性能にほれ込んで使っていたという日本のカメラ会でも伝説の人です。
ピカソが最後の妻ジャクリーヌと暮らしていた時代を映した一連の写真は実に素敵な作品となっています。
これは芸術家同志の出会いがさらに良い作品へつながるということなのか、もしくは優れた芸術家には被写体としても我々一般人とは違う独特の魅力があるということなのでしょう。
他の写真家が撮ったものでも名だたる芸術家を写した写真はたいてい魅力的な作品が多いようです。自撮りのポートレートを見るたびにその歴然とした差にがっくりしてしまいます。(あたりまえ!)
ひととおり園内を見ていたら長い夏の日も少し傾いてきて閉館の時間となってしまいました。たっぷりとした昼食と夏でも涼しい箱根の風と美術品を味わったの後はまだ暑い熱波の名残が残る夕暮れの街まで一気に下りたのでした。