大好きな県立音楽堂にこれまた美しいモーツアルトのクラリネット協奏曲を聞きに行きました。 |
モーツアルトの曲はどうしてこんなに・・と思うほど美しい曲が沢山あるのですけど、なかでも美しい協奏曲が沢山あるのが珍しい気がします。協奏曲というのはオーケストラの伴奏で一つの楽器が独奏をすると言う、伴奏付歌曲の歌のかわりが楽器になったというような曲です?協奏曲のなかでも主役が一番多いのがヴァイオリンとピアノでしょう。有名なのがメンチャイという造語まであるメンデルスゾーンとチャイコフスキーのヴィオリン協奏曲ですが、これを書いていてこの2曲に限らずヴィオリン協奏曲はあまり聞かないことに気が付きました。
モーツアルトのヴィオリン協奏曲も4枚組のシェリングのレコードをはじめクレーメルやムターなど数枚のCDを持っているのですがあまり聞きません。その代わりと言うのも変ですが、ピアノ協奏曲のほうは飽きるくらい良く聞きました。といってもこちらも有名なチャイコフスキーをはじめベートーベン・ブラームスなど名曲が沢山あるにも限らず、なぜかついモーツアルトのピアノ協奏曲ばかり聞いてしまうのです。その理由として他の作曲家と違いピアノとオーケストラがバトルを繰り広げることなく、まるで寄り添うように聞こえるからかも知れません。例えば27番の2楽章でピアノ旋律をオーケストラが追いかけて行くところなどたまらなく優しい感じがしてぞくぞくします。
モーツアルトのピアノ協奏曲は27番まであるという多さですが、良く演奏されるのは15番くらいからでしょうか。どれも聞きやすく素晴らしい曲ばかりなので、お決まりのもし無人島に流された時・・・という質問をされたとき、マタイ受難曲と共に持っていくCDの筆頭に上げたい曲です。余計なことですが、この質問を聞いていつも心配になるのは無人島にはむろん電気など通っていないのでどうやって聞けばいんだろう・・そしてもし電池で聞いているとしても、その電池が切れてしまった後の寂寞感はどれほどのものだろうと心配になったりしてしまいます。ちなみに元東ドイツの女流ピアニストのシュミットの演奏するこの曲のアルバムが好きなので安い全集のCDを買ってみたところCD10枚組でした。ピアノ協奏曲だけでCDが10枚もあるのはモーツアルトだけでしょう!
(このように県立音楽堂の床と外はガラス一枚で繋がっています。)
ところがこれに驚いている場合ではありません。モーツアルトの協奏曲はヴィオリン・ピアノのほかにも沢山あるのです。しかもこれがまたすこぶる良い曲ばかりなのですから驚きです。クラシックを聴き始めた頃先生のIさんから良く聞かせてもらったのがクラリネット協奏曲、フルートとハープのための協奏曲でした。この2曲は珠玉のような名曲でしかも聴きやすい曲なので初めてクラシックを聞く人にはぜったいのお勧めです。
ほかにはフルート協奏曲が2曲、オーボエ、ファッゴット、ホルンで4曲、フルートと管弦楽のためのアンダンテ、管楽器のための協奏交響曲などなどあります。ちなみに僕はパイヤール指揮とネビル・マリナー指揮の2種類のモーツアルとのピアノとヴィオリン以外の協奏曲を集めたレコードのボックスを持っているのですが共にLP4枚組ですからこれだけでも聴くのは大変です。
その中でもひときわ天国的に美しい曲がクラリネット協奏曲です。同じクラリネットを使ったクラリネット5重奏曲も素晴らしいのですが、なんといってもこの協奏曲はうっとりするような名曲です。特に有名な二楽章は秋の日の夕暮れのような透明な佇まいで、これを聞いていると「この明るさのなかへ ひとつの素朴な琴をおけば 秋の美しさに耐えかね 琴はしづかに鳴りいだすだらう」という八木重吉の詩を思い出してしまいます。色づいた雑木林を通り抜ける日の光に、この二楽章はとてもぴったりするように感じられます。この曲の演奏で一番有名なのがウラッハのクラリネットのものですが、僕が好きなのはプリンツの演奏のほうです。
クラリネットはオーボエやファゴットなどと比べ一番の新参者だったので当時のオーケストラにはクラリネットを吹く人がいたりいなかったりというような状況だったようで、モーツアルトの交響曲にもクラリネットが入っていたりいなかったりします。そんなまだそれほど一般的でない楽器を使ってこれほど美しい協奏曲を書いてしまうというのもすごいことです。
そんな良い曲ばかりなのですがこれほど有名な曲の割にはそう頻繁に生演奏を聴く機会はありません。だいぶ昔になりますがロンドンのバービーカンというホールでこの曲の演奏を聞いたことがあります。当時はポンドの価値が高く物価がえらく高く感じられたロンドンでしたがその物価水準から比べるとコンサートのチケット代が随分と割安で、さすが文化程度の高い国だわい!と思ったことを覚えています。演奏はセントマーチンフィドルだったと思います、このクラリネット協奏曲の演奏は素晴らしく、うっとりとするという表現がぴったりの素敵な演奏でした。
(下はピアノとヴァイオリン以外の協奏曲ばかり集めたレコード4枚組全集、2種類です)
今回僕の好きな神奈川県立音楽堂でこの曲の演奏があるというのですから聞きのがすわけには行きません。今回の演奏はカメラ―タ・ザルツブルグで指揮はシェレンベルガー、クラリネットはアレッサンドロ・カルボナーレという美味しそう?な名前のイタリア人です。クラシックにそれほど詳しくない僕には初めて聴く名前です。そういえばモーツアルトの協奏曲でバイオリンとビオラのための協奏交響曲という素敵な曲があります。この曲の生演奏が聞きたくて同じ県立音楽堂まで足を伸ばしたこともありました。生の演奏には生の演奏でなければ味わうことの出来ない音色とか空気とかエネルギーみたいなものがあり、これがしばらく生の音を聴かないと寂しくなってしまう理由なのでしょう。
そして今回生で聴いたクラリネット協奏曲はまさに生演奏でなくては味わうことの出来ないダイナミックな演奏でした。この曲を自宅で聞いているときはひたすら美しさにうっとりとするばかりなのですが今回の演奏を聞いているとその躍動感にもびっくりしてしまいます。体を揺らしながら縦横無尽にクラリネットを吹きまくる姿はまるでJAZZのプレヤーのようです。また生のクラリネットの音もたまりません。前から8列目という席でもあったためかその吹かれ感というかエネルギー感には圧倒されてしまいます。特に聞いていて気持ちの良いのが目いっぱい高音を伸ばした時の強い音や独特の深い深い低音の響きでした。
(同じく県立音楽のロビーです。外の世界とつながっていることが良くわかるショットです!)
オケの演奏も今風の古楽系のさっぱりした弾き方ではなく、思いっきりビブラートをきかせた古風でロマンテイックな響きを感じさせるもので、パイヤールの演奏を思い出してしまいました。(この辺りの感想は、かなりいい加減なものです。ご承知おきを!)それにしても目いっぱいに一生けん命吹かなくてはいけないように見えるこの曲をクラリネット奏者でないモーツアルトが作曲できるというのも不思議な感じです。まるでクラリネットの演奏法と魅力を熟知している人が作った曲のように聞こえるからです。こうやって上手な演奏を聞いていると生まれ変わったら自分も何か自由自在に楽器が演奏できるようになりたいものだと思ってしまいます。今からでも遅くないと言うにはあまりにも楽観的すぎるというものです。なんと言ってもエレキギター教室でリズム音痴だったという事を悟った僕ですから。
今回の演奏会では後半のプログラムはモーツアルトの交響曲40番でした。こちらもチョー有名な曲なのですが、思えばモーツアルトの交響曲というのも最近あまり聞かないようになりました。たまに昔のブルノーワルターやケルテスなどの指揮で交響曲を聴くと、とてもしっとりとして良いのですが、マーラーなどに較べると昔のモノクロ映画とデジタル特撮を駆使した最近の映画ほど違うので、つい交響曲というと賑やかなほうを聞いてしまいます。この40番はクラリネットが入る場合とそうでない場合があるようですが、今回は初稿のクラリネットの入らないほうの演奏でした。冒頭でおなじみのメロデイが流れ始めるとその心地良さにすっかり寝入ってしまったのでした。はっと気が付いた時はもう最終楽章に入っていたというなんとも勿体ない事になってしまいました。しかしこれだけ安らな眠りに入れるというのも演奏が素晴らしかったからでしょう!
さてひと時のここちよい夢から覚めて音楽堂を後にしてみなとみらいに向かいました。昔は音楽堂のある紅葉坂(なんという風情のある名前でしょう。今ではここに紅葉の木は一本もありません)から海が見えたのでしょうが、今はそこに高層ビルがそびえたつ未来的風景が広がっています。
みなとみらいの地下に潜るとどこからか聞いたようなメロデイが聞こえてきました。なんとモーツアルトのクラリネット5重奏曲ではないですか!こちらも協奏曲に負けず美しい曲です。しかもどうやら生の演奏の音のようです。音のほうへ行ってみると見事に飾り付けられたクリスマスツリーの下で演奏会が開かれていました。天井が高いせいかなかなか良い音です。しかも演奏もこんな場所にはもったいないほどちゃんとした演奏でした。思わずしばらくの間聞き惚れてしまいました。
それにしてもクラリネット協奏曲を聞いた帰りにこれまた生の演奏でこんどはクラリネット5重奏曲を聴くことになるとは!こういう偶然というのが実は意外と多かったりするのですから世の中は面白いものです。こうしてモーツアルトのクラリネットの音色を堪能した一日となったのでした。
(県立音楽堂の正面、人を驚かすような立派な建物ではありません!穴あきテラコッタと屋根の線が斜めなのが特徴的です)