大倉記念館にブルーグラス・ミュージックを聞きに行ったこと。 |
ブルーグラスミュージックという言葉を知っている人はごくわずかでしょう。これがカントリー音楽となると知っている人がぐっと増えるはずです。大きくいうとブルーグラスはカントリー音楽の一部門と言うのが一番わかり易いかも知れません。ところが普通の人が聞くとこの二つの音楽はまったく同じように聞こえますし(実際同じ曲もあるのですけれど)その愛好家にとっては猫と犬くらいに違うものなのです。
何が違うかと言いますと一見してまず解るのがブルーグラスはアコーステイック楽器を使い、カントリーは電気楽器を使うことです。そして前者はそれぞれの楽器の独奏が入り後者は楽器よりも歌が主体です。その歌もブルーグラスはサビが必ずコーラスになるのに対して(その時は必ず一本のマイクに数名が寄り添うのが特徴です!)カントリーはほとんどソロ歌手が歌います。たとえコーラスがある場合でもバックコーラスが多いのです。
とはいえその歌の内容は故郷に帰りたいとか、恋人に振られたとか情けない歌詞ばかりなのはどちらも同じ、そして歌詞は悲しいのにそれが音楽になるとやけに明るく聞こえるのも一緒です。
ブルーグラスは楽器のアドリブソロが入るところはJAZZ的とも言えますが、そもそもはアイルランドのダンス音楽にとても近い素朴な音楽でした。そこから楽器の演奏が発達してカントリーよりも洗練された音楽になった・・とブルーグラスの演奏者は思っているはずです。その証拠にブルーグラスの演奏者はカントリーのようにテンガロンハットをかぶってウエスタンシャツにブーツなどという田舎っぽい?スタイルをする人はいないのです。なぜかジーンズにTシャツスタイル程度で、そこにはカントリーとは違うというおおきなこだわりがあるように感じられます?。とはいえどっちの音楽も基本は3つのメイジャーコードしかなくたまにマイナーコードが入るくらいのシンプルさなのですから、その違いは本格的にクラシック音楽を勉強している人からは鼻で笑われそうです!
こんな違いは一般人にはどうでも良いことなのですけど何事もこのようにたくさんのこだわりが存在していることは確かなのです。さて僕がブルーグラスミュージックを聞くようになったのは高校時代の友人二人が青山学院大学のブルーマウンテン・ボーイズというブルーグラスの愛好会に入ったことがきっかけでした。(この愛好会バンドまだあるんでしょうか?)
ブルーグラスのギターの基本はリズムを刻むことにあり6弦と5弦をベースラインとしてピックを強くあてて弾くのですが、この単純な弾き方が意外にも難しかったのを覚えています。そしてもう一つは横浜元町の喫茶店仲間だった知人がブルーグラスバンドをやっていたことです。何年か後のこと、このバンドのメンバー数人と偶然にもテニスの愛好会グループとして再会することになります。このバンドを初めて聞いたのはたぶん今は無き横浜球場の横にあった野外音楽堂だったと思われます。それは今から50年くらい前の大昔の事です。ところがこのバンドはそんな大昔からいまだにずっと活動しているのです。実は今回のコンサートも彼らが出演するというのでテニスの仲間と一緒に聞きに行くことになったのでした。
狭いブルーグラス界においてはこのバンドは有名で(それはそうです・・ほとんど同じメンバーでもう50年以上やってるんですから)しかもレパートリーはまったく変わらないという天然記念物のようなバンドなのです。この変化の早い時代に同じ曲を50年間も演奏しつづけるなんてとてもすごいことです。またそれを聞きに行く人がいるのもすごい。(かくいう僕もその一人ですけど)しかし今回のコンサートに行ってさらに上手がいることが解ったのですが、それは後ほど。
さて今回のコンサートは地元のクリスマス会の催しということなのですが、その会場がなかなか珍しい場所でした。大倉山記念館というところなのですが東急の大倉山という駅名はこの建物があったからつけられた名前だそうで、もともとここは大倉邦彦という方が私財を投入して特定の宗教に頼らず広く精神文化を研究するという目的で建てた大倉精神文化研究所の建物でした。
設計は東京駅を建てた辰野金吾の弟子で日本銀行本店などを設計している長野宇平治と言う人です。なぜか一見するとキリスト教の教会のように見える建物ですがよーく見るとギリシャ風の柱のあるかなり風変わりな建築です。現在は横浜市大倉山記念館として市が管理しています。ながらく横浜に住んでいましたがこんな建築があったとは今まで全く知りませんでした。しかもそこから駅の名前が撮られていたなんて、日々こんな新しい物ばかり発見しているととても寿命が足りそうも無い気がするのですが、新しい事を知ったといっても特に何に役立つわけでもないのでこれでいいのでしょう。(下の写真がその大蔵記念館です。建物の上にパルテノン神殿があるように見えます?)
コンサートが夜だったためこの建物をじっくりと観察することはできませんでしたが、良く見ると中々凝った建物です。ギリシャ風の列柱をはじめ各所にギリシャ風の様式が取り入れられています。そのためかどうかちょっと取り留めのない印象を受けますが、その姿はどうして堂々としています。中に入ると昔の建物ならではの落ち着いた雰囲気が漂っていて僕はどうしても教会にいるような気分になりました。
ホールも吹き抜けの天井が高く祭壇のある場所がステージになっているだけでまさに教会そのものといった感じです。古い建物はただ古いというだけでなく作られたその時代の空気をそのまま残しているように感じられるのがいつも不思議です。
さて満員の観衆の中コンサートが始まります。さすがその辺のシロートに毛がはえたようなバンドとは訳が違います。スムーズでめりはりのある演奏です。だてに50年以上もやっているわけではないのです!
アコーステイックなサウンドが時代を感じさせる古いホールに実にしっとりと似合っていて実に良い心持になります。やっぱり生はいいな!と思えるのは演奏者の腕が良い証拠です。
このバンドを率いるSさんは毎年アメリカのフェスで演奏しているという米国でも一部の知っている人は知っているという有名人なのですが、今回は珍しくもヨーロッパ人が日本のブルーグラスを撮ったドキュメンタリ―映画【FAR WESTERN】のアムステルダム国際映画祭での上映に招かれてオランダまで行って来たばかりだそうです。実は彼と僕はほとんど同じ年齢なのですけど、なにも出来ない僕には羨ましい存在です。僕も次回に生まれ変わったら指揮者になりたいと思っているのですが・・・。久々に聞いた生のブルーグラスミュージックが高い天井に響き渡った瞬間、はるか昔の記憶が風のように頭の中を走りぬけて行ったのでした。
さて今回のコンサートにゲスト出演したのが尾崎ブラザースです。時々TVなどにも出演しているのを見たことがあるというカントリー音楽の世界ではチョー有名な兄弟二人なのですが、彼らの生の演奏を聴くのは初めてです。こちらはテンガロンハットにウエスタンシャツでびしっと決めているのでカントリー系なのでしょう?。大きくて立派な体格で姿勢も良いのでちょっと見アメリカ人のように見えなくもありません。まず自己紹介で自分たちの一番の特徴は年を取っていることだと言っていましたが、なんとこの兄弟83歳と86歳なのです。ところが歌いだすとその声の太さと伸びの良さに驚きます。なんせいまだ現役で各地のライブハウスなどで演奏しているのですから衰えるわけがありません。彼らは今年米国に招かれて日本でカントリー音楽を広めたことによる功績で表彰されたそうです。世の中には上には上がいるものです。(したの写真のテンガロンハットをかぶっているのがその御兄弟です)
というわけで久々にブルグーラスを堪能したのですが、特に生のドブロギターやバンジョーの音にはつくづく生ならではの良さを感じました。