作曲者はビリー・ストレイホーン、あのデュークエリントンの片腕だったと言われる人で、彼が作曲した曲には有名な(A列車で行こう)(ラッシュ・ライフ)など僕でも知っているような曲が沢山ありました。
筋金入りのジャズファンからはこんな有名な人も知らないの!と驚かれるほど知る人ぞ知る有名な人だったのです。 その彼の曲ばかりを集めたアルバムでセンステイブな演奏していたのがフレッド・ハーシュという人でこれまた一風変わった人のようです。1995年シンシナテイ生まれの現在も活躍中の米国人ピアニストですが、2008年には精神に異常をきたし入院、2か月間昏睡状態にあったそうです(エイズとも言われています)。
復帰後2010年に新アルバムを録音しています。日本にも昨年と一作年とに来日してコットンクラブでライブをやっていました。調べてみるとハーシュはブラッドメルドーが師と仰いでいた人だそうで、知っていればライブに行ったのにと思っても後の祭りです。
早速この二人のアルバムを手にいれて聞いて見ました。ビリーストレイホーンはPiano Passionというアルバムで言わば寄せ集めのベスト盤みたいなものでしょうか?聞いて見ると端正ながらスイングする昔風のしっかりした演奏でしたが、今風のピアノトリオばかり聞いている耳にはいささか古風に感じました。
ハーシュのほうは僕の大好きなアントニオ・カルロスジョビンの曲だけを集めたアルバムがあったので、ただちに購入して聞いて見ましたがこれが大当たり。
ジョビンといえばイタリアのジャズピアニスト、ステファノ・ボラーニがやはり彼の曲ばかりを演奏したアルバムがあり、ジョビンファンの僕はおおいに期待してこのアルバムを聞いて見たのですが随分とはぐらかされた感じでジョビンの曲の良さを発揮できているとは思えずがっかりした経験があります。
しかしハーシュのジョビン集はそれとは違い曲の良さを生かした繊細で実に素敵な演奏でした。(これは2001年の録音なのでまだ病気で倒れる前の録音です)ソロピアノのアルバムとしては僕の好きなブラッドメルドーの【エルノゲアサークル】に並ぶほどのアルバムかも知れません。
これは良いと気を良くして次に聴いたのが日本のビーナスレコードが企画した復帰後初の本格的なアルバムといえる【エヴリバデイズ・ソング・バット・マイオウン】でした。録音は2010年まさにリハビリも終わった直後の本格的な復帰作です。
レーベルを見てまず【んー!ヴィナスレコード・・・?】と思ったのは僕だけかも知れません。なんせ僕の場合このレーベルとはたいそう相性が悪いからです。 このレーベルの特徴はまず録音のゲインレベルが高いことで、僕の通常のアルバムのボリューム位置(真ん中より少し手前)で聴いたら割れるような大音響になってしまいます。加えてベースとドラムの派手さといったらすごい物があります。
エネルギー感に溢れた素晴らしい録音という言い方も出来るのかも知れませんが、僕の大人しい装置ではまったくその良さを生かすことが出来ないのです。
思った通り聞いて見ると我が家ではドラムとベースがえらく強調されて聞こえてしまいます。ピアノはこの二つの楽器の中に埋没してしまっているようです。
大先輩のMさんのお宅のような大音量でぶっとぶような迫力ある再生をしたらその良さが解るのかもしれませんが、我が家のオールドスピーカーではとても手に負えません。数曲聞いて止めてしまいました。
数日後にまた聞き直してみましたが印象は変わらず結局最後まで聴きとおすことはできませんでした。音はともかくとしてピアノもジョビン集と同じピアニストの演奏とは思えないほど印象が違うのも不思議でした。ドラムとベースもあまり好きなタイプとは思えません。
というわけでジョビンのアルバムとはあまりの印象の違いに驚いたのです。今は最初に聴いて印象の良かったストレイホーンの曲を集めたアルバムを手に入れようとしているところです。
さてそんな折ビリーストレイホーンの曲ばかりを集めた、他の演奏者のアルバムを見つけました。
昔よく聞いた(ページ・ワン)のアルバムが懐かしいジョーヘンダーソンが92年にリーダーとして録音したアルバムです。
共演はあのウイントン・マルサリス(まだ若い!)を初め、ベースのクリスチャン・マクブライドと馴染みのあるミュージシャンが揃っていたのでもっと新しいアルバムかと思っていました。タイトルはストレイホーンの代表曲ともいえる【ラッシュ・ライフ】です。
期待して聞いて見ると結構今風なのに驚きます。誰にも遠慮することなく俺は好きな事をやるんだ!みたいな50年代風のエネルギーは薄くなっていて、何となく難しいことに挑んでいる感じがします。
90年代になるとジャズも随分理屈っぽくなってきている感じがして、あっけんカランと気持ちよく聞けるのはやはりページ・ワンの方です。ジョーヘンダーソンは惜しくも2001年に亡くなっています。
音楽は時代によって変化するのは間違いありませんが数百年も前のバッハの音楽や、クラシック音楽の中ではまだ新しい方、といっても100年以上も前のマーラーやリヒャルト・シュトラウスの音楽が未だに楽しく聞けてしまうのですからこれも不思議なことではあります。
というわけでジャズでもクラシックでもまだまだ僕の知らない優れたプレヤーが沢山いるはずです。いつどこでどんな演奏に出会えるのか、これも縁というものでしょう。
楽しみなことです。