今回の展覧会はその以前撮ったマイルスの写真の背景に別に撮った桜の写真を組み合わせたものです。
眼光するどいマイルスの背後にほの暗い月明かりに照らされた夜桜?が浮かび、なんとも言えない独特な雰囲気を醸し出しています。
それにしてもマイルスの存在感は写真になってもすごいものがあります。
(展示作品、借り物の写真です)
会場に奥に大きくてひときわ目を引く作品が2点ありました。
それは和服がかけてある様子を絵がいた掛け軸のように見えます。
本題のマイルスとは関係なく、まるで日本画のような静謐感を漂わせています。とても美しい作品です。個人的にはこちらの方が気に入ったのでした。
(写真は借り物です。桜の写真を組み合わせた、展示されていた作品)
さて運よく画廊でご本人の内藤さんと会う事が出来お話を聞かせてもらうことが出来ました。
内藤さんは実にお洒落でダンデイな方で、つばのある帽子にスカーフを巻き、どちらかというと芸術家というよりジャズメンといった雰囲気の方です。
僕が【マイルスが苦手であまり聞いていないのです、知っているのは枯葉の・・】ズン、チャチャ、チャ、チャと思わずイントロ部分を口ずさんでしまいました。
すると内藤さんは、【それですよ、彼は良く知られている曲にそんな斬新なイントロを考えたのです。そこから彼のミュートのペットが入ってくるんですよね!なんと斬新なのでしょう】
そしていかに彼がマイルスから影響を受けたかを話してくれました。
【僕はマイルスの音楽を聞かなければ写真家になっていなかったでしょう】。
(同じく展示されていた作品。月明かりと夜桜の写真を12枚組み合わせて創作されたものです。借り物写真です)
16歳の時にマイルスを聞いて衝撃を受けたそうです。
それ以来ずっとマイルスの、ひと所に留まらない、革新性、独創性、即興性に魅せられ、その精神を写真にも反映し続けてきたそうなのです。
まさにこの展覧会の題どおり【I LOVE HIM MADLY】だったのです。
一人の偉大な才能というのは触媒のように新たな才能を発掘していくのでしょう。人はもとより、なにごとにもそこまで入れ込んだことのない僕などほんとに羨ましく感じました。
【マイルスに桜の花見をさせてあげたかった!】
その思いが今回の桜の花をバックにしたマイルスの写真を作った理由だそうです。
そして以前撮った桜の作品とマイルスの写真を組み合わせて見ると、そこにはみたこともない新たし世界が出現したのです。まるでピアノのソロにトランペットが加わるように・・・。
ぼんやりと明るい夜桜を背景にしたマイルスはものすごくエネルギッシュに生き生きと見えます。
(下はスペースを埋めるための僕の写真です。すみません)
そう聞いてあらためて作品を見てみると、そこにはジャズのような自由な即興性があることがわかってきます。
たとえば着物のように見えるものは、良く見ると桜の枝を通してみる月の写真を何十枚も組み合わせてできています。
まだマックの無い当時、写真をずれないように正確に組み合わせていくのは大変な作業だったそうです。
今ではマックで簡単にそれが出来るそうですが、コンピューターで作ったものと、手作業で作ったものとは全く違うものになってしまうそうです。
(印画紙から現像した写真とデジタル写真はやっぱり違うのです!)
この写真のように、彼の場合一つの作品がまったく別な作品に続いて、そこで化学反応のように新しい世界を生み出して行きます。
それは一つの主題が即興で様々な形に変化していくジャズと同じ構造だったのです。
(これも僕の写真です)
とはいえ彼の作品そのものがジャズのようにおおっぴらに躍動しているかというと、そうではありません。むしろ逆に見えます。
彼の作品にはどこか月の夜のような静謐感が漂っているのです。
それはあっけんからんとしたトランペットの音ではなく、ミュートされて限りなく抑えられた音に似ているのかもしれません。
それゆえにかどうか、僕には風景や人物を撮っただけの作品よりも、そこに自由に何かを組み合わせたり、加工したりしている作品のほうが魅力的に思えたのでした。
特に写真を組み合わせて着物のように見える作品は気に入りましたとお話したら、実は3月末にそういう作品ばかりを集めた展覧会があるのでぜひ来てくださいと招待されてしまいました。
(下も僕の写真です)
僕のようなしろーとがそんな場所に招かれるなどめったにない光栄というのものです。
おもえば1987年に雑誌でみて初めて名前を覚えたカメラマンの展覧会に、その31年後に行くことになるとはまったく想像もしていなかった出来事です。
こういう偶然のような出来事が多いので、世の中にはなにかの縁みたいなものがあるのかなと思わざるを得ないのです。
その後いくつか彼の作品集を手にすることができました。下の写真です。
(色はことのは)(日本の庭)、そして大型の写真集(桜 SAKURA COSMO)です。
とても一人の写真家が撮ったと思えないほど、その雰囲気は異なっていますが、中でも僕が好きになったのは大判の(桜)の写真集です。
この大型の写真集には展覧会で見た桜の写真を組み合わせた作品が沢山乗っていました。
今度の展覧会でまたこれらの作品の本物に出会えるのが楽しみになってきたのでした。