最近のロックバンドを聞いて見た。デレク・トラックス・バンドとヴィンテージ トラブル |

この年になると新しい音楽を聴く機会がものすごく少なくなっています。とはいえ後打ちのリズムに慣れた体がズンズンと響く頭打ちの現代のリズムについていけないので知らずの内にそれを避けてしまっているということもあるかもしれません。
特にクラシックを聴くようになってからは何百年も前のものや、新しいと思えるマーラーでさえもはや100年ちかく前の音楽なのですからなにをいわんやです。
そんな中でジムで知り合ったギター弾きの人から借りたDVDが(デレク・トラックス・バンド)でした。バンドをやっていてエレキギターを弾いているという彼も僕より少し新しい世代とはいえハードロックの世代なので一体どんな音楽だろうと聞いて見たのです。
するとこれがまるで旧知の知人に出会ったようなサウンドなのです。あまりにすごいので同じバンドのCDで97年に発売されたデビューアルバムと2010年のロードソングという二つのアルバムを聞いて見ました。

スライドギターを使ったブルースに古き良き時代のR&Bの歌がかぶさったような古いようでいながら、良く聞いて見ると斬新さも感じるような勢いのある音楽でした。それにしても上手い!最近の若者はこんなにすごいのか!と驚きました。
これとは別に珍しくもブルーノートから発売されているというロックバンド【ヴィンテージ トラブル】というバンドがあり、面白そうだったのでこのバンドのアコーステックライブのアルバムを聞いて見ました。するとなんとこちらも同様の印象を受けたのです。前者の演奏があまりにマニア向けというならばこちらはよりわかり易く一般的です。ドラムとギター一台にベースとボーカルという実にシンプルな構成ながら音が厚いのには驚きます。それにしてもうなるほど歌も演奏も上手いのは両者に共通しています。
この二つのバンドはデレクが97年、ヴィンテージが2010年に結成という比較的新しいバンドなのですが、それにしてはなんという懐かしいサウンドなのでしょう!そしてなんというかっこよい演奏なのでしょう。60年代にこの演奏が出来れば間違いなく現在はレジェンドとして語り継がれていることでしょう!と思えるほど最近のバンドのテクニックとレベルは高かったのです。

基本は間違いなくブルースです。というかブルースそのものと言って良いのかも知れません。ブルースといえば僕の場合その知識はロバート・クレイ辺りで止まっています。ところがこの二つのバンドにはそのエキスがたっぷりと詰まっているばかりかその演奏が格段に上手いのですから驚いてしまいます。ジャズでも最近はバークリー音楽大学卒業というのが珍しく無くなりテクニックがすごいのは知っていましたが、ロックでも同様な事が起きているようです。
この二つのバンドを聞いていてそのあまりのテクニックの凄さに悶絶したのですが、そればかりではありません昔のシンプルなロックやブルースに較べるとアレンジも格段に難しくなっているのです。60年代のメロデイがはっきりとわかるJAZZがフリージャズに進化していったように、ブルースとはいえその演奏は実に複雑かつ自由です。テクニックが向上すると難しい曲を弾きまくりたくたくなるのは良くわかりますが、シンプルな時代に育った僕には少々複雑で難しすぎるように感じられます。
それにしてもアメリカ音楽の伝統ともいえるブルースとかR&Bとかがこれほどまでに現代のバンドに色濃く残っていたとは想像もしていなかったことです。たとえヒップホップやラップが全盛になっても、こういう伝統はどこかでずっと語り継がれているのがさすがアメリカの音楽シーンの奥深いところです。
とはいえこの二つのバンドの演奏は今の僕にはいささかヘビーに感じられることも確かで、確かにそのかっこよさは感動的でさえあるのですがアルバム全曲を聞きとおすのにはちと難しく途中で疲れてしまいます。

その理由の一つとして録音もあげられるかもしれません。と言うのも最近録音されたものはロックに限らずJAZZでもクラシックでも録音レベルの音量が非常に高くて、しかも高域と低域が強調されたような派手な音つくりが多いからです。
とはいえこういう録音にも賛否両論がありまして、たとえばJAZZのヴィーナスレコードというレーベルは人によっては音の良いレーベルとして認識されていますが、僕にはちょっときつく感じられてしまいます。我が家の装置では少々ヘビーすぎて消化不良なのかもしれません。
このきつい録音というのはたとえ音源が50年代、60年代の古いものでもリマスターによってそういう音に作り替えられているものもあり、特にその傾向が強いのはボックス物に多く感じられます。
指揮者や演奏家別にまとめられたボックスは安いけれど音が悪いので絶対に買わないという知人がほとんどです。かくいう僕はその安い値段に釣られて結構持っています。中にはそれほど悪くないものもありますが概して音質はきつい物になっている事が多いようです。

もう一つはロック、クラシック、JAZZなどジャンルを超えた音楽全般に言えることなのですが、テクニックは素晴らしく、音つくりも複雑なのにも関わらず60年代の演奏に較べてどこか退屈に感じられてしまうことです。それは自分の体が現代のテンポやリズムについて行けなくなっているためかも知れません。
こんな話があります。ある人が【ぼくは現代音楽はつまらないから認めない】と言ったそうで、そこで何を現代音楽だと言うのですかと聞いてみたところ、バッハ以降だというのです。彼にとっては音楽はヘンデルで終わっていたのでした。なるほど時代は繰り返すようです。
さて【ヴィンテージ トラブル】ですが、彼らは2014年に来日し青山のブルーノートで演奏をしたことがあり、その時の演奏もこのアルバムには収録されていました。こんな素敵な演奏ならぜひ聞いてみたいものだと思いましたが、そもそもこのバンドの存在自体を知らなかった知らなかったのですから仕方がありません。もしもまたブルーノートに来るようなことがあればぜひ聞いてみたいなと思ったのです。
ちょっとだけ首を突っ込んでみた最近のロックの世界ですが、こんなに凄いバンドがあるとはまったく知りませんでした。どの分野でもまだまだ知らない事だらけなのですが、出会えるものは限りがあります。たまたま面白いものに出会ったというくらいがちょいど良いのかも知れません。
